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第3章:国際分業によるビジネスモデル

はじめに

前章で述べたように、在宅主婦の労力を活用した『一国内フルセット型』のITアウトソーシングは、日本国内においては競争力を有しているが、米国、イギリス、カナダ、豪州のような国際分業によるITアウトソーシングを実施している国々と比較すると、明らかな劣位が目立ってしまう。ただ、これまでの考えでは、日本は日本語という特殊な言語を使用する単一の民族であり、言語制約が既成概念として捉えられていた。その結果、国際社会から日本はIT産業において牽引役を果たすほどのダイナミズムを有していないと論じられている。そこで、ここでは米国、イギリス、カナダ、豪州のような国際分業によるビジネスモデルを日本でも適用できることの可能性について言及している。

日本企業のための国際分業によるITアウトソーシング形態

[図3-1 フィードバック型国際分業のビジネスモデル]

まず図3-1では、国際分業においてどうすれば言語の違いによる制約を克服することができ、国際競争のなかで品質やコスト面において優位性を確立することができるのかについての一つのビジネスモデルを提起している。全体的な流れとしては、マレーシアのような安価な労力の国で、言語制約のない図面データと数値入力を行い、その後、日本の在宅主婦などのSOHOへ仕事を転送、そして言語制約となっている文字入力と最終検査を行う構図となっている。

ここでのポイントは、各国の競争優位性を活かし、一つの仕事を日本人でなければできない部分と、外国人でもできる仕事の2つに分割した点である。ここで取り上げている手書き図面のトレーシングの場合だと、図面そのものには日本語の占める割合は少なく、唯一注釈内容の記載があるだけで、その部分では日本人の能力が必要とされる。そして、マンパワーが必要とされる描画の部分については、図面に関する知識さえあれば外国人でも実施できる仕事であるため、このオペレーティングにおけるコスト低減に着目している。そして、米国、イギリス、カナダ、豪州のような海外依存型の国際分業とは違い、図3-1の業態では仕事の流れがループ状となっており、最終的には本国へ仕事の仕上げ作業がフィードバックされる形をとることによって、日本特有の言語制約を克服することを可能としている。

以上のような構図となる本ビジネスモデルの主要な特徴を要約すると、

することを狙いとし、国際競争力を高めようとしていることにある。そして、このビジネスモデルの提供することができる付加価値としては、

などが挙げられ、従来の日本国内の在宅主婦だけに依存したビジネスモデルよりも、当該ビジネスモデルが国際市場の中で競争力を発揮できることを可能としている。

事業の永続性に向けて

プラザ合意後の円高圧力により、日本の製造業はグローバルな競争においてコスト面での優位性を失い、必然的に安価な労力を求めて海外への進出を余儀なくされた。それと同時に、日本国内では高付加価値製品、または研究開発といった日本以外では成し得ないスキルの高い業務へ特化することにより、海外との棲み分けを探ることとなった。ただ、海外進出に関しては、初期の段階でアジアNIEsが注目されていたが、数年後にはASEAN4、そして今や中国やベトナムといったように、より安価で魅力的な労力と事業環境を次々と求めていく現象が起きている。

このような変化はITアウトソーシングの分野でも同様に起こることが容易に想像できるが、デジタル通信網を通じての変化は製造業のそれよりも格段に速く、且つドラスティックでもある。また、ジェームス・テイラー以来の生産性改善の運動は、前述したように生産拠点がアジアNIEsからASEAN4、そして中国やベトナムといった連続回線の変化であったのに対し、ネットワーク主流の中での変化は不連続な回線となり、ソフトウェア開発拠点がいきなり先進諸国からインドやフィリピンにシフトする現象が起きている。

そのため、当該ビジネスモデルについても、日本-マレーシアの二国間での国際分業だけでは事業としての永続性を追求することは困難であると言える。そこで、図3-1ではマレーシアのような国において主体業務を行うと共に、言語と文化を共有するインド、中国、シンガポールとの孫請けの関係を築き、マレーシアにハブとしての機能を持たせることによって、事業可能領域の幅を広げている。そしてマレーシアを起点とし、よりスキルの高い仕事はシンガポールへ、コスト性を追求する仕事はインドや中国へと展開することによって、事業としての永続性を追求している。つまり、知識労働者のスキルやマルチメディアに対応した法体系の整備は不連続回線であり、国の競争優位性が短期間に変化する可能性を有しているものの、情報通信網などのインフラ整備は連続回線であり続け、一朝一夕にマレーシアの持つハブ機能の優位性が損なわれることはないとの考えに基づいたものである。このような構図を描くことができるのは、これら4ヶ国の民族的な繋がりが深く、言語の違いによるハンディキャップがなく、各々の国が異なった分野において優れた競争力を持っているためである。

マレーシアのマハティール首相は著書『A New Deal for Asia』のなかで、「21世紀になれば、国境を超えて移動するのは金だけではない。労働者や専門家たちも、同じように大移動するだろう。電子通信技術によって、職場と住まいが別々の国ということも可能となる。だが、やがて労働者はボーダーレス世界で、国から国へと移動する。それは単一民族国家の消滅を意味し、すべての国がマレーシアのように多民族社会を形成することだろう。『閉鎖的』な単一民族国家は、虹のごとく多彩な皮膚の色をして複数言語を話す人々の住む社会に適応する術を、いずれは学ばなければならなくなる」と指摘し、言語民族・文化の共有こそが、21世紀の競争において重要な意味を持つことを端的に述べている。

 

 

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