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第5章:事業ポジション

事業ポジション

図5-1は、対象とする事業ポジションとそこから目指すべき事業コンセプトを一つにまとめたものとなっている。つまり、当該ビジネスモデルを実現する上で、どの市場を目指し、何を実現しなければならないのかを示している。

[図5-1 事業ポジションと目指すべきコンセプト]



まず『手書き図面のトレーシング業務』といっても、各々の図面は様々な背景を有しており、全ての図面トレーシング業務を一つの市場として捉えることはできない。例えばスキルの面から言えば、建築図面であればマンションの間取り図から高層建築物の設計図面、電気図面であれば電子部品単体から回路設計、機械図面では加工部品単体から工作機械設計やプラント設計など多岐に渡っている。これら全てをアウトソーシングによって海外の労力で賄うことは可能であるが、高い専門スキルが要求されればされるほど、細部に関する質疑応答などの作業に関してコミュニケーションを密に取らなければならなくなってしまう。また時間的制約に関しても、現在進行形で進められている図面(例えば、取引先から送付された図面を、自社のフォームにトレーシングし直すなど)と過去形の図面であれば、要望される納期に大きな差がでてくる。

現実問題としても、国際分業のITアウトソーシングによって品質を維持しつつ、国際競争力のある価格を実現することは可能であるが、作業効率は下げざるを得ないという劣位が存在する。そのため、ターゲット市場としては、現在国内のアウトソーサーがカバーしている市場の中で、納期に緊急性を有していないが国際競争力のあるコスト性を追求しなければならない仕事、例えば社内においてデジタル化が進められているが、プライオリティーがそれ程高くないためにストックされたまま手を付けられずにいる大量の手書き図面のトレーシング業務などに注力することにより、国内アウトソーサーとの棲み分けを図る必要がある。

その結果、カスタマーとしても従来の国内アウトソーサーと変わらない品質をより安価に享受できるため、より手軽にデジタル化を推し進めることができ、コア・コンピタンスの追及や知識労働における生産性向上などのメリットを得るための基盤を欧米先進国の企業と同じレベルで高めることへと繋げることができる。そして、当該ビジネスモデルの求めるコンセプトである

を目指すことが可能となる。

これまでは、「モノ作り」という分野において日本の有していた優秀な技術力と高い質の労働が競争力となり、国際市場での優位性を誇ることができていた。勤勉な労力は高い品質管理水準を可能とし、1980年代には日本的経営が欧米諸国においても注目されることとなった。そして、日本の製造業が持つ多くの技術水準は諸外国から羨望されるものであり、マス・プロダクションでは海外へ製造拠点が移転したものの、研究開発やハイテクなど高スキルを要する分野では、いまだ世界を主導する立場に置かれている。

だが、知識社会の下では、これまでの経営スタイルによる知識労働の生産性において既に限界が現れている。英語圏では、中小企業といえどもネットワーク技術から享受できるメリットを最大限活用し、国際分業によって外部資源を効果的に利用し、知識労働の生産性を向上することで、今や日本以上に労働の質やスピード、コスト面を飛躍的に改善している。つまり、日本の在宅主婦の労力を活用した際の効果が国内の競争優位性へ波及するにとどまるのに対し、彼等の効果は国際市場での競争優位性にまで及んでいる。そのため、日本が知識労働における諸外国企業との格差を是正する上で、当該事業コンセプトが示すような知識労働における国際分業は避けて通れない道であると言える。

各ビジネスモデルの比較分析

表5-1 比較分析一覧表

[画像のクリックで拡大表示]

表5-1は、これまで取り上げたITアウトソーシングのビジネスモデルに関する比較を一つにまとめたものとなっている。表を見て分かる通り、各々の業態は品質水準こそ同じであるが、その他の項目ではそれぞれが異なった特徴、つまり強さと弱さを有しているため、企業としては仕事の背景に応じ、アウトソーシング先も選定することが必要とされる。また、前述の図5-1でも説明したが、当該ビジネスモデルの事業定義は「国際分業により、世界レベルの競争力ある価格と品質を追求」することであり、そのような意味では『フィードバック型国際分業』は『海外依存型の国際分業』のチャート分析とほぼ同じ傾向の特性を得ることが可能となっている。

 

 

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