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第1章:世界における自動車事情

はじめに

まず最初に、ここでは世界主要国の自動車事情をグラフによって表現し、全体像がビジュアル的に把握できるよう努めている。そして、今回ターゲットとしているマレーシアと周辺のアジア諸国が、世界市場の中にあってどのようなポジションにあるのかを明示し、リサイクル市場としてどのような特徴を有しているのか、またアジア市場が有している特徴について分析している。

そこで、図1-1では一人当たりのGDPと乗用車の所有率、保有台数の関係を一つのグラフにまとめ、世界の乗用車市場分析の土台としている(データには、トラックやバスなどの商用車は含まれていない)。そしてこのグラフから、各国のポジションを以下の4つのグループに分類し、市場を単純化することによって分析を容易としている。以降、グループという名称は、この区分について述べるものとしている。


[図1-1 主要国における一人当たりのGDPと乗用車所有率、保有台数の関係]

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[図1-2 世界主要国における一人当たりのGDPと二輪車所有率、保有台数の関係]

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[図1-3 乗用車市場占有率]


[図1-4 二輪車市場占有率]

Note)
・ 所有率は、保有全台数÷人口にて算出
・ 乗用車関連は各国自動車工業会(1999年度統計)とInternational Road Federation, World Road Statistics, 2001より
・ 二輪車関連は各国二輪車工業会・IRF(1999年末統計)より - 1人当たりのGDPはIMF、World Bank、ADB(2001年度統計)より

 

世界の自動車市場

まず乗用車の普及に関しては、図1-1からも分かる通り、シンガポールや香港といった国土に制約を持っている国を除けば、概ね同じS字カーブの軌跡を描いており、規則性を読み取り易いものとなっている。対してオートバイなどの二輪車については、各国の経済的背景や国民嗜好、法的要因などによって事情か大きく変容するため、ここから規則性を見出すことは困難となっている。

[図1-5 乗用車普及のS字カーブ]

次に、図1-1における規則性を分析すると、概ね各国のポジションは4つのグループに分類することができる。以下では、これらグループ分けを基本とし、各グループにおける乗用車と二輪車市場の特徴を読み取っている。

【GROUP1】
まず最初に、一人当たりのGDPと乗用車保有率の高いGROUP1には北米・欧州の先進諸国が集中しており、中間所得者の比率が高いことから、比較的新しい車種の自動車が道路に溢れているグループとなっている。アジアでは、唯一日本がこのグループに含まれている。

このグループでは早くから自動車が普及してきたため、道路舗装などのインフラ整備もかなり進んでおり、隅々にまで自動車社会が浸透している特徴を持っている。S字カーブで市場成長を見ると、このカテゴリーの日米欧それぞれの市場はすでに成熟期の局面に達しており、成長は頭打ちの状況にある。

次に所有台数で見ると、自動車大国である米国が1億3,300万台と圧倒的な数字を示しており、日本(5,243万台)やドイツ(4,242万台)、フランス(2,748万台)、イギリス(2,753万台)、イタリア(3,200万台)といった先進国がそれに続いている。ただ、二輪車では、日本とイタリアを除いては全体的に所有率・所有台数が低く、それほど普及していない。先進国においてこれほどはっきりと差が現れるのは、国内の道路事情や消費者嗜好が大きく影響しているためである。

また、このグループに位置する米国と日本、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スウエーデンといった国は自国に世界的な自動車メーカーを有している特徴がある。そのため、専門分野におけるスキルが高く、このグループに位置する国々の多くは自動車産業において、世界をリードしている存在であると言える。

【GROUP2】
次いでGROUP2は国土面積の制約があるため、渋滞とそれによる大気汚染防止の観点から他国で類を見ない保有自動車総量規制を行っており、個人所得が高いにも関わらず、乗用車・二輪車の所有率を上げることができないグループとなっている。また、香港では自動車登録税が100%以上と高額なために、モータリゼーションはその経済的実力よりも進んでいない。そのため、S字カーブで説明すると、自動車社会の成長が成長期の途中で頭打ちとなり、普及率が GROUP1の諸国に比べて相対的に低くなっている。とはいえ、国民所得の高いこのグループでは、比較的新しい自動車に対する豊富な購買意欲を背景に、数人でシェアしながら質の高い自動車社会を謳歌している世帯が多いカテゴリーとなっている。また、国土が狭小なため、国内の輸送網が発達しており、あまり自動車を必要としない環境が整っている。

【GROUP3】
GROUP3は目覚しい経済成長の途中にある国々で、モータリゼーションを迎えた今日、急速な発展を遂げようとしているグループである。乗用車の普及台数だけで見るならば、東アジアの台湾(450万台)と韓国(783万台)、マレーシア(385万台)のそれは既にスウエーデン(389万台)やスイス(346万台)、オーストリア(401万台)、ベルギー(454万台)、オランダ(612万台)と大差ない数値に達している。

S字カーブで説明するならば、GROUP3はちょうど幼稚期から成長期への移行果たしたカテゴリーとなっており、今後の高い成長が期待できる市場であると言える。ただ、国民所得が先進諸国ほどは高くないため、前述のGROUP1とGROUP2に比べると、全体的に輸入中古車の比率が高くなっている。それも、GROUP1と2の国から輸入した自動車が市場を占有している。とはいえ、韓国とマレーシアといった国では政府の強力な後押しと国民スキルの高さから、自国に自動車メーカー(韓国では現代や起亜、大宇が、マレーシアはプロトンとプロドゥア)を有するまでに至っており、輸入中古車の比率は同グループの他の国よりも低い。そして、両国の自国車への保護措置が自国の消費者の購買意欲を高めるに十分であったため、近年自動車産業が急速に成長しており、早い時期にGROUP1のカテゴリーへ加わることのできるポテンシャルを有しているといえる。ただ、今後は市場の自由化をいかに進め、国際競争力を高めるかが鍵となろう。この他にも、台湾で国内で自動車の国産化が行われているが、小規模な工場が多いために、自動車価格が割高で、このグループでは例外的に経済的実力よりも自動車の普及が低い結果となっている。

また、このグループでは二輪車の成長も著しく、所有率では台湾が49.23%で世界第1位、マレーシアは24.71%で世界第2位となっている。これは国内の道路事情や国民嗜好による影響もあるが、国民所得が大きく向上し、乗用者と二輪車の両方を購入できる世帯が増え、また若い世代でも、二輪車であれば購入できる層が増えた結果であると言える。

【GROUP4】
最後にGROUP4は、国民の所得水準が低く、モータリゼーションにまだ達していない国のカテゴリーとなっている。そのため、乗用車の保有率、保有台数ともまだ小さく、市場としての魅力は薄い。S字カーブで説明すると、当該グループは幼稚期の局面に位置しており、メーカーとしては販売市場より、安価で勤勉な労力を有する生産拠点としての魅力の方が今はまだ高いと言える。

ただ、このグループの乗用車普及率の低さは所得水準だけでなく、政府による制限や価値観にも大きく影響されている。例えば中国の場合だと、中国政府は長年に渡って生産財としてのトラックを奨励し、消費財の乗用車は贅沢品として購入を抑制してきた。そのため、乗用車は政府の要人だけが乗るものとの意識が人々のなかで長年にわたって醸成されていた。

この考え方に変化が現れたのが1994年の「自動車工業産業政策」であり、自動車産業発展のためには、ファミリーカー(乗用車)の普及が不可欠との認識が打ち出された。それでも、近年に至るまで、政府部内では家庭への自動車普及に反対する意見が強く残っており、国家資金で乗用車を購入する政府や国有企業に対しても、政府による購買認可政策が長く取られ、特に赤字国有企業の乗用車購入は抑えられた。また、自動車が老朽化するまで代替はできないような廃車・更新管理政策(一定期間、一定走行距離に達した場合にのみ廃車・更新が可能)も採用れてきた。さらに、自動車は政府や国有企業の国家財産になるため、資産価値を減らすような中古車価格はつけられないという考えも加わって、中古車市場も発展しなかった。
最近の変化として、乗用車の購買認可政策は政府機関についてのみ厳しく、国有企業には緩和されつつある。また、廃車・更新管理政策の緩和や新車市場活性化のための中古車販売の実験も行われるようになった。政府はもはや個人購入を遮ろうとしておらず、むしろ促進させるために自動車ローンも発足させた(ただし、制度が不十分なため利用率は低い)。しかし、その効果はまだ現れておらず、新車販売での乗用車比率は約30%(2000年)と低い。
ただ、大都市部を中心に乗用車を購入できるだけの所得を得ている層は着実に拡大しており、問題はこれらの人々の多くが購入を控えていることである。主たる理由は、高い乗用車価格、購入時や使用時の自動車関連費用の負担が不透明でかつ重いこと、都市部の交通渋滞が激しく自動車の利用価値が低いため、などである。とはいえ、将来的には、中国はインドネシアやインドといった巨大な人口を抱える国々と同じグループに位置しており、世界の自動車メーカーが注目する市場であることは確かである。

次に、このグループに位置するアジアの国々では、日本の中古車の比率が際立って高い特徴を有しており、タイとインドネシア、フィリピンにおける日本車のシェアは90%前後にまで達している。また、中国市場についても、1995年には日本車のシェアは24%と低いシェアであったが、1998年には39%弱にまで高まっている。特にアセアン諸国でこれほどまでに日系車が大きなシェアを持っているのは、1960年代初めからの「先行投資」の賜物であり、日系メーカーが各国の様々な要求に誠実に対応し、国産化比率維持のためのローカル部品メーカーを育ててきた実績が大きい。また、自前で現地に部品工場を作ったことが、高いシェアを維持する最大の原因となっている。その結果、タイはAFTA(ASEAN FREE TRADE AREA)域内における自動車産業のハブを標榜するまでに至っており、生産拠点としての高い注目を浴びている。

以上のように、現状でGROUP4における乗用車市場は比較的まだ低調であるが、二輪車の所有台数は凄まじく、中国は3,161.9万台で世界第1位、インドが2,569.3万台で世界第2位、インドネシアが1,265.2万台で日本の1,453.7万台に次いで第4位となっており、二輪車大国としての様相を呈している。

[図1-6 グループ別の乗用車市場占有率]

 

 

環境に対する認識

[図1-7 自動車の年式とリサイクル率の関係]

 

【GROUP1】
まずGROUP1に位置する国々は、自動車の消費が環境に与える影響について国民の認識が高く、環境保護に対する積極姿勢が見受けられる。そのため、廃棄自動車や二輪車の回収システムも高度な体系が整えられ、新型車の比率が高いこともあるが、乗用車であれば概ね1台当たり85~90%がリサイクル可能とされており、最終埋立処分量の減量化が最も進んでいる。
また、自動車メーカを自国に持つことから、自動車メーカーサイドからの取り組みも活発であり、開発から生産、使用、廃棄に至る自動車ライフサイクル全体を踏まえた総合的な取り組みがなされている。例えば、燃料電池自動車の開発や各パーツの再利用が可能な自動車開発、シュレッダーダストゼロを目指した自動車開発など、その活動領域は多岐に渡っている。
ただ、自動車の解体業者や最終処理業者の側では、コスト的な問題に悩まされている現実もある。例えば再生素材がバージン素材に対して価格競争力を有しておらず、また自国の高賃金体質が処理費用を巡って採算のとれないものとなっている。そのため、消費者のリサイクルに対する認識が高まっているにも関わらず、経営破綻となっている業者が多発する現象が起こっている。このような状況に対し、日本では抜本的な対策が成されておらず、大きな問題として台頭している。

【GROUP2】
次にGROUP2では、それほど台数がないこともあるが、自国での取り組みはあまりなされていない。業者による回収・解体・金属の再利用などといった一般的なことは国内でもなされているが、シュレッダーダストのような埋立を必要とするものについては、国土面積が制約されていることから、二国間協定によって隣国へ依頼しているケースが多い。

【GROUP3】
そしてGROUP3では、自動車の急速な普及により、環境に対する配慮が急いで必要とされているカテゴリーとなっている。例えば、マレーシアの首都クアラルンプールでは、自動車の排気ガスによる大気汚染が深刻な問題として取り上げられており、マレーシア全体から発生する大気汚染物質の81%が排気ガスによるものとの数字が出ている。これは経済発展によって自動車台数が急増したことが主因であるが、その他にも、先進国から中古車として輸入された15年以上前の多くの老朽車が、今でも道路を走っていることも影響を及ぼしている。事実、15年以上の老朽車が排出する汚染物質の量は、新車の30倍にも達すると言われている。このような状況に対し、大手エネルギー企業のペトロナス社は、環境に配慮した天然ガス自動車「エンバイロ2000」の開発を1986年ごろから進めてきている。「エンバイロ2000」は、1998年にクアラルンプール市内でタクシーとしての利用が開始されており、これまでに生産された天然ガス四輪車は約4,000台。このうち、1,000台の「エンバイロ2000」がクアラルンプール市内で利用されている。また、天然ガス四輪車用の燃料供給スタンドは、都圏を中心に21店舗が設置されている。ペトロナスは2002年初め、ジョホールバルやペナンを含む22カ所で今年中に天然ガスの供給スタンドを設置し、2006年までに、スタンド数を 162カ所に増やす計画を明らかにしている。また、ペトロナス社はタイ石油公団(PTT)とフィリピン国家石油公社(PNOC)との間に提携関係を結び、「エンバイロ2000」の路上試験を現地で展開、天然ガス四輪車の早期普及を目指している。この他にも、シンガポールでの導入が検討されており、環境対策に向けたマレーシアの積極的な姿勢が見られる。

そして韓国でも、マレーシアと同様に大気汚染は深刻な問題として台頭している。大気汚染の代表的な指標となる大気粉塵濃度を見ると、ソウル首都圏の場合、 2001年度は1?当たり71μgと欧州など先進国の1.7~3.5倍に達している。そこで、自動車による大気汚染を減らすため、韓国でも電気自動車や天然ガスバスなど低公害車両の導入を拡大する一方、老朽車の早期廃棄を進めていく方針をとっている。具体的には、2012年までに電気ハイブリッドカー15 万台、電気自動車10万台の普及を目指すほか、8トン以上の清掃車の天然ガス自動車への転換、天然ガス市内バス1万2,000台の導入も進める。老朽自動車の廃棄では、15年以上走行している自動車(首都圏で約2万台)を対象に廃棄を進めていく計画となっている。

また、日本のケースでは、毎年全体の7~8%程度が廃車として処理されているが、このグループではその比率がさらに高いものであると推察される。理由は前述したように15年以上前の老朽車の割合が高いためであり、そのため、リサイクル率もGROUP1の諸国に比べて相対的に低いものと思われる。いずれにしても、環境に対する基盤はまだ脆弱であり、先進諸国との技術協力が望まれる部分が多々ある。
ただ、個人所得の高まりは快適な環境で生活することを望む欲求が高まる傾向にあり、排ガス対策の分野では積極的な姿勢が見られ、今後の成長が大いに期待できる。市場としても、このグループに位置する多くの国がスウエーデンやスイス、オーストリア、ベルギー、オランダに匹敵する規模を有しており、パイのサイズは小さいとは決して言い切れない。逆に、高い経済発展を遂げている中にあるからこそ、先進諸国よりもリサイクルに対するニーズを喚起し易いとも言える。

【GROUP4】
最後にGROUP3は、消費者の思考が大量消費の方向を向いており、環境への配慮はまだ希薄であるといえる。現在、乗用車の保有台数が少ないため、環境に与える影響もまだ米国や日本など先進諸国の比ではない。しかし、このグループには中国、インド、インドネシアという人口大国が存在している。インドはソフトウェア産業により、中国とインドネシアは工業化によって高い経済成長を遂げている最中であり、自動車市場も幼稚期であるにもかかわらず、著しい成長を記録している。そして、中国とインドにおいて普及率が1%でも上昇すれば、1千万人の市場が生まれたことを意味している。世界的規模で見た場合、現在は GROUP1の国の自動車が環境に与える影響が大きいが、中国、インド、インドネシアの一人当たりのGDPが高まり、モータリゼーションの兆しを見せた時、このバランスは大きく崩れるものと推察される。

 

 

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