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第8章:まとめ

21世紀の産業クラスター

産業界は今後10年間で、その製造工程を再設計し、廃棄物を全く出さない生産システムの構築、つまりゼロ・エミッションを迫られることになるだろう。ゼロ欠陥、ゼロ在庫という課題を克服した後は、このゼロ・エミッションが生産技術者の共通目標になると思われる。あらゆる廃棄物をなくすプロセスは、コストを一貫して削減する努力にほかならない。さらにそれは、産業グループ化の後に、これまで志向された垂直型統合とは明確に異なる形の産業統合の動きを加速するであろう。

ただ、一般に廃棄物を全く出さない生産は無理な注文であり、少なくとも現在の市場条件下では費用がかかりすぎると考えられている。だが、20年前には、欠陥ゼロの完璧な品質の製品を製造することは困難とされてきたが、現在では、完璧な製品でなければ市場でシェアを握ることができず、当たり前のものとなっている。当時、製品の品質を向上させるには余分なコストがかかると言われていた。しかし、実際にはアフターケアなどにかかる費用が少なくなり、利益は向上する結果となった。そして今では、完璧な品質が競争力を持つための手段であるというロジックが浸透し、市場参入の前提条件と捉えられている。
同じことはゼロ・エミッションについても言える。今は廃棄物ゼロが可能だと考える人は少ないが、10年後、20年後にはそれが「世界標準」となっているかも知れない。

そうした意味において、現在の経済システムを効率的なものと見なすことはできないし、廃棄物が発生する限りにおいては、改善の余地が残されている。そこで、国連大学学長顧問のグンター・パウリ氏は「揺りかごから揺りかごまで」という新しいコンセプトを提示しており、本書もその考えを踏襲している。氏の考えは、あらゆる形態の廃棄物はインプットであり、別の生産サイクルのための原材料となることを出発点としている。つまり、あらゆる形の廃棄物は産業メカニズムの中に統合されるべきものであり、どのような形態であろうと、ある産業から出る廃棄物は別の産業にとっての投入要素とならなくてはならないとの考えである。そしてそのようなロジックが働けば、企業は互いのサイト(所在地)をできるだけ近づけたいと考え、企業の集積が進むことによって魅力的なクラスターが形成され、深刻な環境問題の解決にも繋がることを可能としている。

今回本書で紹介した「廃タイヤのマテリアルリサイクル」にしても、「自動車シュレッダーダスト」のリサイクルにしても、廃棄物を別の生産サイクルのための原材料として捉えている。また、パイロットテキなビジネスモデル対象国としたマレーシアには、既にゴム産業や自動車産業などの魅力的な関連クラスターが形成されており、当該分野においてシナジー効果を得ることのできる産業統合が可能であると期待している。

 

最後に

地球は外部から太陽エネルギーの補給を受けて物質の循環が行われているシステムである。そこへ、人口の増加と人類による諸々の活動の拡大は、化石燃料の使用に伴う廃棄物や化学物質の放出を拡大させ、いわゆる地球環境問題の発生を見るに至った。昔から公害問題は発生しており、1970年代初頭には世界にも関心が高まったが、今日の問題はさらにそのスケールから見て、深刻さを増し全地球的視野の元で取り組まなければならない状況にある。しかし、諸問題を放置したまま人類の活動が拡大継続していくならば、いずれ人類の生存条件が損なわれ、その時になって対策を施しても回復できないという『不可逆的』な過程の進行が指摘されている。

先進諸国の自動車産業においては、そのような危機感から政府、企業、個人のレベルで様々な取り組みがなされている。特に、低公害車の開発や廃棄物の少ない製造プロセスの構築、リサイクルしやすい自動者の開発などは内外から高く評価されている。しかし、いくら先進諸国の自動車メーカーが開発から生産、使用、廃棄に至る自動車ライフサイクル全体を踏まえた総合的な取り組みがなされても、その自動車がマレーシアや台湾といった中進国に効果を及ぼすのは早くとも 10数年後であり、中国やインド、インドネシアに至っては、数十年後と推察される。その間、これら諸国はリサイクル効率の悪く、環境への負担が大きい自動車を使用続けなければならないことを意味している。

そして、高い成長を続ける(日本を除く)アジア諸国の自動車市場は、2、3年後には日本を上回り、10年後にはヨーロッパやアメリカの水準に達するものとみられている。景気変動などで波はあるものの、日本や韓国の例からして、長期的には工業化の進展にともなう所得水準の向上によって上昇カーブを描いていくであろう。現在、世界の自動車市場は日本が600万~700万台、欧州が1,700万台、北米が1,500万台であり、それから考えても、アジアでの増加分が環境に与える影響が大きいことは容易に想像できる。

だが、欧米先進諸国や日本には、中進諸国や発展途上国がいま所有している老朽車に対して効果的なリサイクル技術を所有しており、現地の循環型社会の形成に大きく寄与することを可能とし、当該ビジネスモデルはその普及を手助けすることができると期待している。

 

 

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