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第2章:下水インフラと各諸要素の関係

下水処理施設利用人口割合と人口密度(k㎡当たり)の関係


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Information resource: OECD Environmental Data Compendium 1999

上記では、「人口密度」と「下水処理設備利用人口の割合」をグラフにまとめ、その関係を表現している。まず、第Ⅰ事象にあたる諸国は、人口密集国ではないものの、下水道利用人口の割合が大きく、国土全体に渡って下水インフラが整備されていると言える。主に北欧諸国、欧州先進諸国がこのカテゴリーに該当している。また、米国やカナダと言った広大な国土を持つ北米の先進国も同じカテゴリーに含まれている。

次いで第Ⅱ事象の諸国は、都市部での下水インフラ整備状況は高いであろうが、人口密度が小さいために国土全体への整備が遅れており、社会資本に関しては発展途上の諸国がこのカテゴリーに該当している。世界的に見れば、このカテゴリーに最も多くの国が当てはまると言える。

日本が含まれる第Ⅲ事象の諸国は、人口密度が高く、高度な下水インフラが整備されているカテゴリーと言える。この事象の特徴は人口密度が高い優位性を生かし、短期間に高度なインフラ整備を構築し、多くの国民がそれを享受することが可能で、香港やシンガポールも同じカテゴリーに含まれている。この事象ではアジア諸国の比率が高いという特徴を有しており、欧州では唯一オランダが該当している。

最後に第Ⅳ事象は、人口密度が高いにも関わらず、インフラ整備が遅れている諸国が該当するが、このカテゴリーに含まれる諸国は北朝鮮のように特別な背景を持った諸国だけと言える。

 

下水処理施設利用人口割合と人口の関係


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Information resource: IMF、WorldBank

ここでは人口が多く、且つ下水道の利用割合が多いほど巨大な下水インフラを整備し、国民に行き届いたサービスを提供しているものと判断している。第Ⅰ事象では、人口は少ないが下水インフラ利用割合が高い諸国となっており、北欧4ヶ国がこのカテゴリーに含まれている。この他にも、香港やシンガポールも同じ事象に位置している。続いて第Ⅱ事象は人口が少ないにもかかわらず、利用人口割合ともに低く、社会資本整備が遅れてしまった東欧諸国が主体となっている。第 Ⅲ事象では先進首脳国G8の内6ヶ国が含まれており、経済力の強い国が位置している。最後に、第Ⅳ事象の諸国は巨大な人口を抱えた発展途上国が該当し、アジアでは中国やインド、インドネシアが当てはまっている。

 

下水処理施設利用人口割合と国土面積の関係


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Information resource: IMF、WorldBank

 

下水処理施設利用人口割合と一人当たりのGDPの関係


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Information resource: IMF、WorldBank

上図は、各国の「下水道インフラ利用人口割合」と「一人当たりのGDP」の関係をグラフ化したものである。このグラフを見て分かるように、両項目の関係から一つの傾向を掴むことができる。例えば、1人当たりのGDPが2,000ドル前後のASEAN諸国では下水インフラの利用割合は一桁台だが、5,000 ドル前後に達した東欧諸国では下水インフラの利用割合が50%前後に急上昇している。その後は緩やかなカーブを描いており、1人当たりのGDPが 25,000ドル前後で下水インフラの利用割合が70%超といった状況になっている。
こうして見ると、欧州先進諸国や北欧諸国に比べると、日本は一人当たりのGDPが高い割に、利用人口の割合が低い位置にいると言える。ただ、以上の結果より、概ね一人当たりのGDPが20,000ドル以上の国は、高度な下水インフラを整備していると言える。

 

下水処理施設利用人口割合とインターネット普及率の関係


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Information resource: ITU

 

S字カーブによる分析

下水管渠の普及には人口密度、人口、国土面積、GDPなど、その国を取巻く環境や情勢に大きく左右されるが、その推移は概ね『S字カーブ』を描いている。このS字カーブは前述の諸要素によって成長のスピードを決定付けることができ、各国の下水インフラが現在どのような成長過程にあるのかを判断できる。例えば、国土面積が小さく、人口が密集しており、GDPの高いシンガポール(香港)は下水インフラ整備への着手が遅かったにもかかわらず、短期間で下水処理施設利用人口の割合が100%(95%)に達し、成熟期のフェーズにある。対して北欧諸国は古くから下水インフラの整備が続けられていたため、長い時間をかけることにより、現在は成熟期に達している。日本は、東京23区だけを見れば間違いなく下水インフラ整備において成熟期に達しているが、国全体で捉えた場合は東欧諸国やアジアの新興国である韓国、マレーシアとほぼ同じ成長期に位置しており、先進主要7ヶ国の中ではもっと遅れている。

次に東京23区における下水管渠管理延長の推移(下図)を見ると、それはほぼS字カーブの曲線を描いており、1990年代に成熟期に達している。東京の近代下水道の歴史は、明治初期の度重なるコレラの流行や衛生思想の発達を受け、1884 年に建設された「神田下水」に始まる。その後の関東大震災において失業救済事業として下水道工事が実施され、管渠の管理延長が急激に伸びた。ただ、第2次世界大戦前後には工事が停滞してしまい、グラフが歪な形となっている。1955年頃からは再び管渠の管理延長が急激に伸び、成長期の様子を呈している。そして1994年度には管渠の管理延長が100%に達しており、現在は緩やかなカーブに変化している。このような事から、東京23区の下水インフラが成熟期を迎えるまでに、約100年の年月を費やしていることが分かる。

[東京23区におけるの管渠の管理延長の推移]

Information resource: 東京都下水道局「東京都下水道事業年報」

 

 

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