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数年前まで、既存の建物にLAN環境を構築するということは大変な抵抗があった。まずケーブルの経路を確保し、壁に穴をあけたり大掛かりな配線工事が必要であったりする。その工事も直ぐに完了するはずがない。最近のオフィスではそのようなことも考慮して空間設計が施されているが、古いオフィスやマンション、ホテルなどは設計段階でそのような配慮がされていないのが普通である。しかし、インターネットの爆発的普及により、このような建物にも高速なインターネット環境をを標準装備する必要が生じてきた。つまり、いかにして既存の環境を流用して高速なインターネット環境を導入するかがLAN市場の課題であった。その解決策の一つとして注目されたのが、HomePNAである。
HomePNAとはHome Phoneline Networking Alliance の略で、既存の電話で使用している2Wireの屋内電話配線を利用し、音声とデータを多重伝送する技術の標準規格及び標準化を推進する団体を示す。この技術はTut Systemsの家庭内LAN構築システム「HomeRun」をベースにして仕様を固めたものである。また、本団体は、1998年11月にIT関連企業を代表する下記11社によって設立された。現在、同メンバーは約200社にのぼり、富士通や松下電器産業などの日本企業も多数加盟している。
3Com | Hewlett-Packard Company |
AMD | IBM |
AT&T Wireless | Intel |
BROADCOM | Lucent Technologies |
Compaq | Tut Systems |
CONEXANT |
HomePNAの家庭内LANの仕様は、「シンプル」「安全」「安価」なものになるとのことを提唱している。そして、家庭内に張られている既存の電話線を利用して、通常の電話サービスを中断させることなくパソコンのネットワークを構築できることを目的としている。
第1世代のHomePNA 1.0はTUT SYSTEMSの「HomeRun」をベースにしており、1.0Mbpsの伝送速度を実現している。日本でもマンションやホテルに導入され、高い信頼性を誇っている。
第2世代のHomePNA 2.0ではBroadCom傘下のEpigramとLucent Technologiesの技術をベースとして、10Base-Tと同様の10Mbpsの伝送速度を実現している。同時に新規格はHomePNA 1.0との互換性も維持している。
また、従来はPCなどの端末への接続はRJ-45しかサポートしていなかったが、最近では多くのメーカーがUSB、PCMCIAなどのインターフェースに対応した製品をリリースしている。
HomePNAは下図のように5.5MHz~9.5MHz(中心周波数: 7.5MHz)という高い周波数帯域を使用している。そのため、HomePNAは電話やADSLといったその他に電話回線を使うプロトコルと共存することができる。また、送信権はCSMA/CD (Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)方式に基づいて割り当てている。
近年、HomePNAを使用したインターネットマンションやインターネットホテルが続々と登場している。特に既存のマンションを多数抱えるデベロッパーやホテル経営者にとってHomePNAの特徴は魅力的である。また、それを使用する利用者にとっても、安価で定額な常時接続環境を利用できるという魅力は大きい。
そのHomePNAの特徴は下記の通り。
<メリット>
既存の電話線(2Wire)を利用できる
新規工事が不要(工事費の低減、ネットワーク構築期間の短縮が可能)
音声とデータを同時に伝送することが可能
伝送距離が約150mと10Bast-Tより長い
多数のクライアントと通信が可能 (現在=25)
伝送速度が速い (HomePNA 2.0=10Mbps)
ADSLに必要なスプリッターが不要
セキュリティー性が高い
ISDN回線による周波数干渉がない
Plug&Playで簡単に接続できる
<デメリット>
利用可能な場所がモジュラージャック周辺に限定される
HomePNAアダプターの価格がまだ若干高い
日本ではHomePNAはマンションやホテルへの導入に限定されている。だが、短期間の間に数多くの事業者がHomePNAを採用し、高い信頼を得ている。ここでは積極的にHomePNAを導入している事業者を紹介する。
1999年11月、マンションデベロッパーの大京は全てのライオンズマンションにHomePNAを使用した定額制の常時インターネット接続環境を構築すると発表した。現在この戦略は新会社の"FAMILYNET"に引き継がれている。一世帯当たりの月額利用料金は2,000円前後。HomePNAにはTUT SYSTEMSの機器を使用している。
ダイア建設は自社所有のダイアパレスに順次インターネット環境を整備している。屋内LANにはHomePNAを使用し、アクセスラインにOCNエコノミー(128kbps)を採用している。同時にDHN (Dia Home Net)という専用サービスを居住者に提供している。一世帯当たりの月額利用料金は2,000円前後。ただアクセスラインが細いため、HomePNAのパフォーマンスを十分に活かしきれていない。
2000年4月から、寮運営大手の共立メンテナンスは自社所有の学生会館や社員寮へ定額制の常時インターネット接続環境を導入した。屋内LANにはHomePNA機器を使用。ルートテクノロジーが装置の開発を担当し、トーメンサイバービジネスが商品化。ネットワーク施設工事はオーティコムネットが担当。月額利用料金は利用料金は1,800円。
ヒルトン東京
ヒルトン東京は1999年10月からビジネス宿泊客向けに無料のインターネット接続サービスを開始した。屋内LANにはTUT SYSTEMSのHomePNAを使用。また、アクセスラインには帯域保証型専用線(128kbps)を使用。現在、客室の3分の1にあたる257室に同環境を整備している。
リーガロイヤルホテル
2000年4月1日から、大阪のリーガロイヤルホテルはTUT SYSTEMSのHomePNA機器を使用したインターネットサービスを開始。アクセスラインにはOCNエコノミーを使用。現在100室にLAN環境が導入されており、宿泊者は無料で使用できる。
常時接続型インターネット環境の提供
有線サービスよりも安価な料金体系
定額料金
電話回線に依存しないネットワークを構築できる
ブロードバンドサービスの提供が可能
ここでは集合住宅向けHomePNA機器を取り扱っている主要企業を紹介する。現在、この市場ではTUT SYSTEMSが市場を独占しているが、他のメーカーも固有な特徴をアピールした製品を市場にリリースしている。
Diamond Multimedia Systems, Inc.
米国では家庭に複数のモジュラージャックを各家庭に設置しているため、HomePNAは広範囲の市場獲得を狙える。一方、日本などのアジア市場では、通常各家庭にモジュラージャックは複数設置していない。そのため、マーケットは集合住宅やホテルなどに限定されてしまう。また、同市場を脅かす存在として、 VDSL(Very high-bit-rate Digital Subscriber Line) のインターネットホテル市場への参入がある。VDSLはHomePNAと同様に既存の電話回線を使用し、10Mbpsの伝送速度を実現している。日本ではプリスホテルや京王プラザホテルなどが採用している。特に、オーストラリアではVDSLを使用したインターネットホテルがポピュラーになっており、 HomePNA市場にとって脅威になっている。現在は機器価格がまだ高価なため、マンションなどの集合住宅への導入実績は少ない。そこで、HomePNA としてはIEEEやITUといった標準化団体への提案、採択を通して業界標準を目指している。
ただ、電話回線を使用するネットワークにとって更なる脅威はHomePlugの存在であろう。HomePlugは家庭内電灯線を利用し、電源コンセントをから電気とデータを同時に伝送できる技術のことで、現在、数Mbpsの伝送実験に成功している。今後数年内には10Mbpsクラスの伝送速度が実現される見こみである。この技術が一般市場へリリースされれば、ユーザーは何処からでもネットワークへアクセスすることが可能になり、応用範囲は広い。その技術が市場に与えるインパクトは既存の電話回線を使用する技術以上であることは確かである。
しかし、当面の間は信頼性・扱い易さ・コストパフォーマンスにおいて、HomePNAがイニシアチヴを握ることができるであろう。