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最近、通信業界が注目している技術の一つに、"パワーラインモデム(電力線モデム)"と呼ばれるものがある。これはその名の通り、家庭内に配線されている電力線を利用して、インターネットや電話などのネットワークに接続するための技術。つまり、家庭内の既設のコンセントに電源プラグを差し込むだけで、簡単にLANを構築できるというものである。
このような、何処にでもあるコンセントを利用してネットワークを構築するというコンセプトは昔から存在しており、決して新しいものではない。初歩的な通信としては、長い間使用されてきた。ただ、安定した高速、あるいは広帯域のデータ転送システムに作り変えることは困難とされていたため、一般市場へ普及しなかった。通常、電力ネットワークは効果的な電力供給のために設計されているので、通信技術の併用などは考慮されていない。そのため、変圧器のハードルやヘアドライヤーや電子レンジなどの家電製品からの干渉という問題が立ちふさがっていた。しかし、技術の進展により、近年そのようなノイズに耐える製品開発の目処がついた。それがパワーラインモデムである。
この技術が通信業界に与えるインパクトは大きい。電力線は一般家庭で最もポピュラーで、テレビアンテナ線や電話線よりも数多く使われている。それら既設の電力線を、通信ネットワーク接続のために効果的に利用できるとしたら、電話網以上の新しく巨大な通信インフラストラクチャーが突然誕生することになり、通信業界の再編成につながると予想される。
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電力線ネットワークといった場合、大局的に以下の3つに分類される。
電柱から家庭の配電盤まで(ラストワンマイル)の低圧配電線を利用するネットワーク接続
屋内の電灯線を使った家庭内LAN
送電線を利用した基幹ネットワーク
現在、日本の事業者に許可されているFWAの仕様は下記の通り。WLANと違い周波数ブロックは割り当て制のため、各自業者間で電波干渉が起こることはない
これまで、家庭向けの電力線通信といえば、"エコーネット"と呼ばれる制御用通信が一般的であった。制御データだけなので高速通信は不要であり、伝送速度は9,600bpsと低速で、インターネットなどの情報通信には不向きであった。
しかし、1998年にFSK(Frequency Shift Keying)を使用したパワーラインモデムが登場した。この時、伝送速度は350kbpsにまで向上、インターネットなどの通信インフラとしての注目が高まった。そして2000年には、QPSK(Quadurature Phase Sift Keying)方式で4チャンネルを同時に使い、2Mbpsの伝送速度が実現された。そして現在は、同じQPSKのチャンネル数を増やすことで、10Mbpsの伝送速度実現を目指している。
ただ、各社が開発している製品に統一性がないため、仕様がまちまちである。そこで、業界では仕様の標準化を推し進めるため、幾つかのコンソーシアムが結成された。
まず一つは、シスコシステムズ、インテル、ヒューレット・パッカード、パナソニック、シャープなど、約80社の技術企業が参加するHomePlug Powerline
Alliance
がある。設立は2000年3月。このコンソーシアムでは、Intellonという企業の技術を基礎基盤として仕様をまとめている。既に2001年1月、
Ver1.0のドラフト版が完成しており、現在は世界中で実証試験が行われている。この検証で有効性が確認された後、Ver1.0仕様が正式に発表される
(2001年3月の予定)。Ver1.0での伝送速度は10Mbpsと高速で、HomePNA2.0や無線LANと同水準のパフォーマンスを提供できる予定。
その他に、ソニー、トムソン、Inariなどが参加するCEA: 米家電協会や欧州の標準化団体などが乱立している。しかし、最終的にはHomePlug
Powerline AllianceやCEAなどの製品仕様は統一され、世界標準仕様が作成されるものと思われる。
現在、世界中でパワーラインモデムの実証試験が行われているが、その際、焦点となるのが下記事項である。
家電製品によるノイズの影響
電力線による電磁波ノイズの影響
高速通信の実現
機器の低価格化
各国規制の壁
つまり、各国規制範囲内で、如何にしてノイズの影響低減しつつ高速通信を実現し、同時に一般ユーザーが購入できる価格水準にまでコストを引き下げるかが普及までの重要課題となっている。
下図は、パワーラインモデムを使用した基本的なシステム構成である。屋内に設置するのは、PCなどの端末と専用モデムだけ。このモデムは端末のデータをアナログ信号に変換して、電力線に流しこむ。アナログデータは電柱上に設置された親モデムで取り出され、ディジタルデータに変換され、光ファイバーケーブルに送られる。
日本でも、九州電力と北海道電力 が上記のようなネットワークで実証試験を行っている。彼らは、電波法が定める通信周波数帯(10kHz~450kHz)の範囲内で、メガbpsクラスの高速データ通信達成を目標としている。先に挙げたノイズと高速通信の課題については、OFDM方式を採用することにより、解決の目処がついてる。現在、事業化に向けて、さらにフィールド試験で電力線通信の品質やコスト性を検証している。順調に行けば、2002年ごろから商用サービスが始まる可能性がある。ただ、現状では親機モデムのキャパシティーがまだ小さいので、コストメリットには不安がある。
<メリット>
パワーラインモデムを使用したサービスが本格化すれば、ユーザーが得るであろうメリットは計り知れない。以下は、その主なものを列挙した。
配線の手間が要らない
導入コストが安価
インストールや接続が容易
家中どこにもあるコンセントを利用できる
電話回線に依存しないため、電話料金が不必要 など
マルチパスの影響を少なくするためには、シンボル長を長くし、全体に占める符号間干渉を小さくすればよい。 FDMでは、下図のように高速なデータ信号を低速で狭帯域なデータ信号にに変換し、周波数軸上で並列に伝送する。
下図は、周波数軸を基準とした断面図である。周波数分割多重(FDM)はキャリアを多重化するのにBPF(Band Pass Filter)を用いており、フィルタの実現性からキャリア間にガードバンドが必要となる。 FDMは直交性を利用し、周波数軸上でのオーバーラップを許容するため、より周波数の利用効率を向上することが可能となる。ADSLやパワーラインモデムでは複数の搬送波を使うOFDM方式を採用しており、一部の周波数帯域にノイズが発生しても、極端に速度が低下しないようにしている。
OFDM方式の特徴は下記の通り。
このように、デジタル通信には有益なOFDM方式だが、同時に下記のデメリットも持っている。
OFDMという技術は以前から知られていたが、低コストで実現することは困難であった。だが、LSIの集積化が進み、DSP(Digital Signal Processing)チップを使うことで、複雑なOFDMの処理をソフトウエアで実現できるようになり、一般市場へ普及させることが可能となった。
現在、多くの企業がパワーラインネットワーク構築の為に技術開発/実証試験を行っている。下記企業群は、特に積極的に開発を行っている企業である。
Ambient
Corp.
PLT(Powerline Telecommunications
Technology)という技術で25Mbpsのデータ伝送速度を実現。
Inari
Novelから分離独立した会社、10Mbpsを開発中。
Intellon
PowerPacket Technologyと呼ばれる技術を所有。
Media Fusion
Magnetic Wave Technologyと呼ばれる技術を所有。基礎研究で2.5Gbpsの超高速データ伝送を実現。
Online AG
EON(ドイツのエネルギー企業複合体)とEnikiaとの合弁。
PolyTrax Information
Technology
日立と共同実験を実施中。
SONICblue
HomeFree Powerlineと呼ばれる技術で10Mbpsを実現。(基礎技術はPowerPacket
Technology)
Thomson
Inariの技術を使用。
富士通
HomePlugメンバー
松下電器産業
HomePlugメンバー
三菱電機
3Mbpsの高速電力線搬送モデムを開発、九州電力の実証試験で評価中。
日立製作所
2.4Mbpsの高速電力線搬送モデムを開発。
海外の企業と比較して、この分野における日本企業の開発は遅れている。だが、海外のサプライヤーにとって日本市場は、法律や配線事情などが異なるため、そのまま本国の製品を輸出することはできない。また、今後仕様の標準化が進めば、日本での製品開発も活発になるであろう。
パワーラインネットワークの持つポテンシャルは、従来のLAN技術を遥かに凌ぐ。既に家庭内のインフラは整備されており、全ての家電製品は電力線に接続されている。これほど十分に整備されたインフラは他にない。ただ、ネットワーク家電の普及は大分先の話であり、当面はインターネットへのアクセス網としての注目が高い。また、現状では親モデムのキャパシティーが狭く、同時に多くの家庭を収容できない。しかし、親モデムの収容可能数が増えれば、コストが下がり、幅広い用途への利用が可能となるであろう。
パワーラインネットワークの利用範囲は、家庭内ネットワークやインターネットアクセスだけではない。防犯、医療など外部のネットワークと簡単にリンクでき、大容量の情報を扱うことができる。特に今後注目されるのが、下図のようなサービスである。従来の電話回線を利用したシステムでは困難であったこれらサービスが、このネットワークでは実現可能になる。
家庭内LANの分野では、今回紹介したパワーラインネットワークと2.4GHzの無線技術を使用したBluetoothが特に注目されている。両者とも優れた特徴を有しており、従来のLANネットワークの枠を打ち破る技術して有望視されている。将来的には、ユーザーの用途や利用環境に合わせ、両者は共存すると思われる。例えば、家庭内の固定された家電などのネットワークでは、パワーラインにアドバンテージがある。しかし、モバイル性や海外での実用性では Bluetoothが有利である。