HONE >> BIZ IDEA >> Mine Detector>> 事業コンセプト/プラン


要因分析

地雷探知・除去がなかなか進展しないのは、決して単純な理由からではない。複数の要因が重なり、それが複雑に絡み合い、あるいは悪循環となって結果に現れる。下表は、製造業で使用される「要因分析法」によって、地雷探知・除去が進展しない要因を抽出したものである。ここでは地雷探知機の技術に焦点を当てているため、事後処理(医療やアフターケアー)、関連機関のネットワークや教育などの要素は省いている。

下図のように、地雷探知・除去が進展しない理由は、いくつかの要因が現在の状況を生み出していることが分かる。そして、地雷探知機が占める要素はその一因でしかない。そのため、新しい地雷探知機が開発されたからといって、地雷探知・除去が急激に進展することはありえない。

要因分析図


(図1)[画像のクリックで拡大表示]

 

 

現状分析

現状分析では、地雷探知機と呼ばれているものについてのみ取り上げる。そのため、化学分析などの手法は除外する。

技術の区分

現在、世界には地雷を探知するための機器がいくつか開発されている。下表は、その特徴から探知機を第1世代から第4世代にまで分類したものである。


[画像のクリックで拡大表示]

[第1世代]

第1世代では、金属探知機以外に地雷を探知できる道具が存在しなかった。さらに、機器価格がそれほど高くなかったことが、普及に拍車をかける結果につながった。ただ、正確性、安全性、効率性の点での評価は高くない。

[第2世代]

第2世代では、電波を使った技術が主体である。デザインは携帯性を考慮して、金属探知機と同じようなデザインが多い。この世代での目的は、探知の正確性である。1Gでは、地中のあらゆる金属を掘り起こす必要があり、土壌による影響も問題となっていた。そこで、2Gでは「地中の状況が、(ぼんやりと)画像で確認できないか」といったコンセプトが最優先されている。

この世代の機器を、積極的に開発している企業は下記の通り。日本では、中小企業の活躍が目立っている。

 ジオ・サーチ
  「マイン・アイ」シリーズ、IBM/シャープ/オムロンなどが技術協力

 株式会社コス
 
「センシオン」シリーズ

 株式会社バーナム
  コス社と「センシオン」シリーズを共同開発

 Quantum Magnetics
  米国企業

[第3/第4世代]

第3世代では、作業者の安全性を重視した方法が主体になると予想される。そういった意味では、ロボットを使った技術は大変有効で、期待できるものである。ただ、この分野は莫大な予算と専門知識を必要とする。そのため、ロボットを使った技術では、「実用化に20年程度必要」との予測もあり、現実的でないとの見方が多い。また、機器価格/(メンテナンス)エンジニアの育成/操縦性など、課題は山積みである。
次に、第4世代では新しいセンサーの開発が期待されている。特に、「匂いセンサー」は有望な技術の一つであるが、技術確立までには更なる時間を要する。

各世代のポジション

下表は、各地雷探知技術のポジションを表したものである。探知機のパフォーマンスが向上すると共に、製造コストが高まっていくことが分かる。また、地雷探知犬はその特徴から、1.5世代のポジションへ設定した。

[価格と正確性/安全性/処理速度に対するポジション]



(図2)

 

比較分析

下表は、現在流通している地雷探知技術の(地雷探知における)長所と短所をまとめたものである。結果のように、どの技術にも短所はある。しかし、2Gの短所は改善可能なものであり、今後の成長が期待される。


[画像のクリックで拡大表示]

日本製の優位性

携帯電話に代表されるように、日本企業はコンパクトで軽量な製品を開発/製造する能力に優れている。更に、性能と品質は欧米のそれを遥かに上回っている。この分野では、日本の技術力は世界一と言っても過言ではない。同様に、地雷探知機もコンパクトで軽量、高性能/高品質といったニーズが存在する。これは日本企業の得意分野であって、欧米企業では真似できないと考える。そして、こういったニーズが存在する限り、日本製品に対する人気/期待は高い。しかし、問題はコストである。コストが高ければ、他の部分がいかに優れていようとも、カスタマーは二の足を踏まざるを得ない。特に、地雷探知・除去に関する資金は逼迫している。少しでも、直ぐに必要な医療などの予算へ割り当てる必要があるかぎり、この問題は深刻である。

 

コンセプトと狙い

このプランが目指すコンセプトは、以下の2項目である。

 戦略的優位性の確立

 資金バランスの是正

戦略的優位性の確立

20世紀、世界は核に対する脅威を核によって抑止してきた。それは天秤の上でバランスをとっているようなもので、際限のない拡大につながった。
そしてソ連崩壊後、その頭脳が中東や朝鮮半島、南アジアなどへ流出、更なる脅威を生み出す結果となった。

国際的には、核兵器不拡散条約などにより、核の錘を管理/削減して行こうという措置が採られた。だが、実際には地雷と同様に、その条約を遵守しない国家が存在し、錘は減っているが天秤の数は増えていくといった異常な事態に陥っている。さらに、一部の秤にはカーテンが掛けられ、錘の数が見えないようになっている。国際世論はそのような国家を批判し、核軍縮を叫ぶが事態が是正される兆候はない。それは、核兵器が国家戦略における戦略的優位性を保持しているからである。

だが、逆に言えば、核の持つ戦略的優位性が無くなれば、それ自体は「時代遅れ」で戦略的価値が無いものになる。その事にいち早く気付いたのが、レーガン元米国大統領であった。この時代、ソ連の頭脳が核武装を目論む小国へ流出、そして新たな核保有国の誕生といった最悪のシナリオが現実化していた。そこで、レーガンは戦略防衛構想(SDI)により、仮想敵国が保有する核の戦略的優位性を無くそうと考えた。つまり、図3において、仮想敵国が保有する核兵器の戦略的優位性を、X-YからX'-Y'の位置に近づけることにより、自国の優位性を高めようと考えたのである。だが、実現までの問題が多過ぎ、計画は中止された。政治的には各国の同調が得られず、技術的にも困難で、それに伴い莫大な予算を必要としたことが主たる理由である。(注1)

だが、コンセプト自体はその後も引き継がれ、国家ミサイル防衛構想(NMD)へと形を変えた。この計画は、SDI構想を焼き直したもので、侵入してくる核ミサイルを衛星などのセンサーで捉え、迎撃する防衛システムである。ただ、NMDもSDIと同様の問題を抱えている。特に、米露が1972年に締結した対弾道ミサイル・システム制限条約(ABM条約)に抵触し得る可能性があり、大きな障害となっている。

ただ、NMD構想はきっかけを作るだけで、核兵器の戦略的優位性が直ぐにX'-Y'に近づくものではない。対兵器の3要素(「確実性」「安全性」「コスト性」)を確立しなければ、NMD構想は中途半端な位置にとどまり、更なる脅威を助長しかねない。CIAも同様の分析結果(注2)を政府に提出しており、懸念を表している。

この構想があらゆる障害をクリアーし、対兵器の3要素を確立すれば、核兵器が持つ戦略的優位性は低くなり、「コストのかかる時代遅れのもの」として扱われる。しかし、同時に誰もコントロールできなかった「核」の脅威を、米国がコントロールすることを意味する。そして、この構想の実現によって、米国(軍産複合体)が得る利益は莫大である。つまり、各国政府は、世界のミリタリーバランスを米国によって独占されることに懸念を抱いている。

[兵器と対兵器のバランス]

図3

[兵器の戦略的優位性無力化までのステップ]

図4

核兵器の場合は様々なファクターが重なり、各国に与える影響も大きい。そのため、あらゆる要素が大変複雑に絡み合い、問題を難しくしている。

これは、地雷についても言える。地雷は、「簡単に作れるが探知や撤去が困難」なため、戦略的価値がいまだに高い。そのため、「スマート地雷」といった新たな製品が開発され、市場に投入といった事態へつながっている。しかし、もし「安価」で「確実」に、そして「安全」に地雷を探知/除去できれば、地雷が持つ戦略的優位性は低くならざるをえない(X'-Y')。この場合、この3要素は大変大事な意味を持つ。1つでも欠けたならば、その優位性バランスは崩れ、 NMD構想と同様の事態を招きかねない。
例えば、第1世代では、「確実性」と「安全性」が欠如しており、地雷の拡大を阻止できなかった。第1.5世代と第2世代はコスト性が欠けており、決定的な地雷削減には至っていない。本プランは、第2世代の地雷探知機のコスト性を高めるものであり、それにより、地雷の戦略的優位性をX'-Y'の位置へ近づけることを主眼としている。

また、技術的には、(音波を吸収する素材/塗料の使用により)第2世代の探知機でも探知できない新たな地雷を開発/製造することは可能である。しかし、それではコスト的負担が戦略的優位性を上回ってしまい、現段階では使用する側にメリットがない。しかし、時間が経過するにつれ、2Gの探知機の優位性も低くなり、時代遅れのものとなるであろう。私は、その時ためにも、第3/4世代の地雷探知機が必要だと考える。


図5

(注1)
同様のコンセプトは、1950年代後半から1960年代前半にかけてBAMBI(Ballistic Missile Boost Phase Intercept)構想としてアメリカで考えられていた。研究プロジェクトでは、宇宙配備の迎撃システムの可能性が研究されていた。

(注2)
米国が国家ミサイル防衛(NMD)を実戦配備すれば、中国は対抗上、核弾頭の数で現在の約10倍という大幅な核戦力の増強に乗り出す。中国の現在の核戦力について、単弾頭の大陸間弾道ミサイルを約20基の固定サイロに配備していると分析した上で、NMDが配備されれば、中国は移動式の多弾頭ミサイルの開発を目指すと予測される。米国の防衛システムを突破するために、弾頭数は200基程度に増えるとして、NMD配備は中国の核兵器増強という「望ましくない結果」を引き起こすであろう。

資金バランスの是正

現在、各国政府は地雷被害国に対して多くの資金援助を行っている。だが、実用化に更なる時間が必要な地雷探知機の研究/開発に、多大な資金が投下されている事も事実である。そのため、現地で直ぐに必要な資金(下記参照)が不足する事態に陥っている。

 医療費 (医療機器、リハビリ等含む)

 後方支援費 (車両、発電機など)

 地域復興費 (インフラ整備、教育など)

 データ収集

 ICBLはこのことを危惧しており、資金バランスの是正を各国政府に求めている。だが、実際に研究開発が行われているプロジェクトに対して、資金を大幅に削減する事は困難で、期待するほどの効果は得られないであろう。

[ICBLが求めるポジション]

図6

本プランでは、2G探知機本体の価格低減により、資金バランスの是正を目指している。効果は小さいが、2G地雷探知機の価格は現地にとって無視できるものではない。

 

 

戦略的優位性へのプラン

事業プラン概要

本事業は、地雷探知機のあらゆるコストを低減することにより、需要の拡大を喚起し、地雷探知に有益な2G技術の幅広い普及を目指している(図7参照)。
そこで考えられるプランは、地雷探知機を研究・開発・製造している先進国企業と、発展途上国の電子部品・製品製造企業との戦略的提携である。企業提携においては、企業提携、事業提携、資本提携、技術提携、生産提携、業務提携などがあるが、ケースバイケースで適切な方法を選択する必要がある。ただ、基本的には技術開発などの知識集約部分は先進国に依存し、アセンブリー等の労働集約部分は発展途上国に任せる方法を主体として考えている。それにより、現在2G探知機が位置するポジションc-dを、より価値のあるc'-d'のポジション近づけることを狙いとする。


図7

事業ポジション

本事業のポジションは下図の通り。ターゲットとする技術は2Gの地雷探知機で、製品性能を維持しつつ、生産コストの低減を目指している。そして最終的に求めるものは、これまで述べてきた「2G地雷探知機の戦略優位性を確立」、「地雷除去に関する資金バランスの是正」である。





図8

市場定義

地雷除去活動は大きく分けて2つのカテゴリー、つまり商業ベースのものと人道的なものに分類できる。両者の違いは、早いか徹底的かであり、その両方であることはない。前者は軍隊のような組織であり、後者はNGOなどの人道的地雷除去団体と言える。一般的に商業的契約は、利益を重要視するために、地雷除去率よりも時間を優先されてしまう。対して人道的地雷除去団体は、時間よりも100%の除去率を重視しており、地雷除去作業員の安全を守りながら、人道的基準に合わせて地雷埋設地域の地雷を除去している。国連の場合、人道的地雷除去率の基準を99.6%と設定(注4)しているため、商業的地雷契約が比較的多いとされている。

ただ、人道的地雷除去団体も近年、商業契約者が必要になってきていることを認めている。なぜなら、人道的地雷除去の活動能力は、多くの地雷被害地域における地雷除去を引きうけるにはまだ十分ではないと同時に、商業契約者は人道団体が除去できない特定の地域において地雷除去を行なうことができるからである。
しかし、商業ベースには依然として『除去率の低さ』、『ディマイナーの安全性(注5)』に課題がある。そのため、当該構想の市場定義は商業ベースをメインターゲットとしている。つまり、商業ベースの除去活動において2Gの探知機を導入することができれば、『地雷の除去率』と『ディマイナーの安全性』、『除去時間』を同時に向上することが可能と言える。そして、この影響は当然コストにも反映されるべきものである。さらに、人道的地雷除去団体は現地の労働者を雇用し、地雷処理の任務にあたっているため、探知機改良のためにデータのフィードバックを得ることが難しい(現地からの情報では、故障した金属探知機が安易に廃棄されるなど、一部ルーズなところが見うけられる)。そのような観点からも、当該探知機の市場定義は商業ベースを主体としている。

(注4)
地雷除去率99.6%は『The 1997 International Standards for Humanitarian Mine Clearance Operations』において設定された数値、2001年10月に発表された『International Mine Action Standards (IMAS)』では地雷除去品質等が大幅に改訂されている。

(注5)
クウェートにおける地雷除去作業(728k㎡)において、4,000人の外国人地雷除去作業員が従事していたが、そのうち84人がその活動中に死亡している。

事業化のための外部条件

本プランにおいて、満たさなければならない外部条件は3つ。これは本プランを実施する上で必要不可欠な要素であり、一つでも欠けたならば事業化に対する有効性は失われてしまう。

1. 地雷探知に対して、有効な技術が存在し、コスト的問題を抱えている

2. 地雷探知機開発に関する法的制限が少ない

3. 技術(生産)移転が可能な国が存在する

1についてはこれまで述べてきた通りであり、条件は満たされている。2は、オタワ条約の発効で地雷探知機に関する技術のオープン性が保証され、かつ東京会議で「技術移転の促進」などが策定されている。だが、国家間の政治的配慮は別次であると考える事が妥当で、事前に幾つかの案を提起しておく必要がある。また、3については、コンピューターなどの複雑な機器でさえ発展途上国で生産可能なレベルに達しており、ほぼ問題く技術(生産)移転が可能だと考える(次章を参照)。
以上、私の分析では2G地雷探知機に関する本プランは実現可能なフレーズに達しており、有効性は十分であると考える。

 

 

ポテンシャルカントリー

本プランはコスト性の追求を起点としているが、全ての国が対象となるわけではない。技術(製造)移転に関して、国際的批判が予想される国や、技術レベルが未発達な国などは当然除外されるべきである。ここでは、前述のプランを実現するための移転先として、適切なポテンシャルカントリーを消去法にて選択する。消去法の項目として挙げたのは「プロダクションコスト」、「政情」、「投資環境/製造技術レベル」、「距離」、「国際的条件」の5項目。この5項目全てを満たす国こそ、私は地雷探知機を製造する上で有益な国であると考える。

注3)
南アフリカはコンペチターとしての特色を有しているため、ここでは対象から除外した。

プロダクションコスト

まず、製造コストだけに注目したとき、先進諸国以外は全てコスト優位性を持っている。南米、東欧、東南アジアや中国など、全ての諸国が条件を満たしている。そのため、この段階では全ての発展途上国が対象となる。

ポテンシャルカントリー: 全発展途上国

 

政情

地雷探知機は、「武器の性能を低下させるもの」であり、厳密に言えば「武器」である。そのため、政情不安を抱えている国での製造は、意味を持たない。そして、その可能性を有している国も除外されるべきである。そのため、南米、南アジア、中東、アフリカ、ボスニアなどの一部東欧諸国、そしてインドネシアや中国での製造は問題がある。

ポテンシャルカントリー: 東欧諸国、東南アジア諸国

 

投資環境/製造技術レベル

2Gの地雷探知機は、精密な電子部品を使用する。そして、製品品質には細心の注意を払う必要がある。そのため、初期の労働集約産業(繊維業など)に依存している国は除外される。明確な投資環境が整い、それに伴う技術レベルとスキルを有している国となれば、東欧、台湾、シンガポール、マレーシアに絞り込まれる。また、日本の電子部品企業もこれら諸国へ多数進出しており、実績は既に世界市場で証明されている。

ポテンシャルカントリー: 東欧諸国、台湾、シンガポール、マレーシア

 

距離

日本企業と協力する場合、これは大変重要である。飛行機で10時間以上の遠方では、問題発生時などに適切な処置が遅れてしまう。そのため、日本企業との提携に限って、ここでは東欧諸国を除外する。

ポテンシャルカントリー: 台湾、シンガポール、マレーシア

 

国際的条件

ここで言う「国際的条件」とは、地雷に対する対象国の背景を示している。つまり、地雷を生産/輸出しているか、その実績や可能性があるか、そしてオタワ条約を批准しているかなどが問題となる。
まず、台湾とシンガポールは数年前まで地雷を製造していた実績を持っており、製造を再開することも可能としている。また、オタワ条約も未批准のため、同条約の第6条を適用することができない。

ポテンシャルカントリー: マレーシア

 

以上のように、上記5項目の条件を全て満たすのは、マレーシアだけという分析結果が得られる。また、同国のメリットとして、

 英語によるスムーズなコミュニケーションが可能

 QC、ISO、TPMなど、製造業に必要なツールが広く普及している

 マレーシアの対日政策(ルック・イースト)

  パイオニア・ステータスによる優遇措置

 地理的優位性(カンボジアとの距離が近い)

 アクセス網が発達(KLIA、チャンギ国際空港)

 気候や土壌などの環境が、カンボジアに近い

その他に、マハティール首相の存在は無視できない。20世紀、アジア諸国には指導力と明確なビジョン、そして行動力を持ち合わせた政治のトップが多数存在した。台湾では李登輝氏、シンガポールではリー・クアンユー氏などがそうである。だが、その多くは既に表舞台から退陣しており、現在は横並びの状況である。しかし、マレーシアではマハティール首相が現役で活躍を続けており、その能力を今も世界に向けて発揮している。

マレーシアでのメリットにおいて最後に記述した「環境」については、製造業において無視できる問題ではない。電子部品は、気温や湿度によってその性能が変化しやすく、製造工程においても同様である。日本では問題なく作動するものが、現地では不具合を生じるという現象は多々見られる。物理的に同様な環境を作り、QA評価を行ったとしても、現地と同じ品質結果が得られる事は稀である。マレーシアであれば、カンボジアなどの地雷被害国と同様の環境下(高温多湿) で常に品質確認を行う事ができる。

 

 

製造コストの比較

日本で生産されている軍需関連の製品は、性能面では世界トップレベルにある。だが、製造コスト/販売価格は世界水準と比較すると格段に高い。これは日本国内の物価を反映した当然の帰結であるが、世界水準からすると異常な価格である。
例えば、三菱重工が生産している90式戦車は、世界トップレベルのパフォーマンスを誇っているが、そのコストは米国製・ドイツ製の同クラスの4~6倍に跳ね上がる。また、国内で製造されている装甲車(三菱重工製、小松製作所製)などの重機も同様で、パフォーマンスは世界トップレベルだが、コストが他国と比較して数倍の価格である。これは重機だけでなく、探知機などの小型機器についても言えることで、パフォーマンスは素晴らしいが、コスト的には世界市場で競争するだけの力がない。ただ、国産の戦車や装甲車、戦闘機は国内向け販売だけであるため、そのような高コスト体質でも許される。だが、地雷探知機は世界市場で競争しなければならず、それは国際水準での競争を余儀なくされる。さらに、地雷除去関連の活動は予算が逼迫しており、コストを重視せざるをえない状況である。そのため、性能とコストのバランスが優れている、南アフリカの軍産複合企業に需要が集中する事実も頷ける。

しかし、高性能/高品質、小型/軽量といった部分に関する技術力では、日本企業は間違いなく世界一である。そして、製品パフォーマンスに見合うだけの製造コスト低減を実現できれば、南ア企業とも競争できると考える。そのためには、国際的な戦略的提携は避けて通れない道である。

ただ、同様の探知機を製造している企業は、マレーシアを含む発展途上国には存在しない(南アフリカは除く)。そのため、生産ラインやQA機器は新たに設置するか、日本で使用している設備を移転しなければならない。さらに、そのための社員教育も必要となる。しかし、トータル的には日本で新たに工場を増設するより遥かに安価であり、世界市場で競争できる製品を製造できると考える。また、マレーシアは電子部品に関して優秀なスキルと設備を有した企業が多数存在し、高性能/高品質、小型/軽量といった日本製品の特徴を損なうことなく、製品製造が可能だと考える。

 

 

製造コストの比較

政治的問題

本事業コンセプトは、地雷探知機という「武器」を扱うものである。そのため、政治的障害が最も大きいと考えられる。国際条約では、地雷探知機技術開発に関する「不当な制限」を禁止しており、日本国内法もそれをフォローする形を採っているが、実際問題として、2国間の製品開発/製造/販売には数多くの反論が予想される。そのためにも、事業内容を明確にし、第3者機関などへそれを公開する必要性が生じると考える。つまり、監査機能の必要性である。
公開/明確化すべき内容としては、下記内容が挙げられる。

 サプライヤー/材料数量の明確化

 製造プロセス/生産数の明確化

 販売先/販売数の明確化

 経営内容の第3者機関への報告

 上記整合性の明確化

事業としての永続性

投資受け入れ企業から鑑みた場合、当該製品は高度技術を使用しており、ハイテク産業を奨励しているマレーシア国家としても歓迎するべき投資である。ただ、地雷探知機という限られた市場でしか販売できない本製品は、民需製品のような安定した需要が保証されるものではない。また、事業の永続性から見た場合、市場は有限的にならざるを得ない(ゼロにはならないだろうが)。そのため、地雷探知という限られた製品だけを製造する事は非効率的であり、事業としての有効性は低い。だが、2Gの地雷探知機は地中探査機、漏水探知機や鉄筋探査機などの民需製品から発展したものであり、2G地雷探知機に限っては、民需製品との共存が可能である。つまり、事業の経済性・永続性を考えた場合、地雷探知機においては軍需製品と民需製品の並行生産を考慮すべきだと考える。

Note)
現在、マレーシアを含む発展途上国では、地質/施設技術上の問題から、道路の陥没が多発している。また、水道管からの漏水により道路が水没、通行止めといった事態も頻発している。探査機による定期的な調査を行えば良いのだが、当該探査機器が高価なことから、各国は事後処理に依存せざるをえない状況である。また、鉄筋コンクリートのクラック調査においても、原始的な方法が採用されている。
実際、鉄筋コンクリートのクラック調査を行っている企業にインタビューしたとき、日本に便利な探査機器がある事は認識しているが、製品価格が高価なため、購入する事が難しいと言っていた。

 

 

まとめ

前述した地雷生産について、ICBLの調査では、「地雷生産国は年々減少しており、その数も500万個以下」との推計を公表している。だが、私の調査では、現在も50ヶ国以上で100社以上の兵器メーカーが地雷製造を続けており、その市場は1億ドル以上に達すると推計される。

表向きは、確かに「地雷製造禁止」などを表明した国家が増えているが、水面下では地雷の製造が継続されているというのが事実である。それは、地雷がいまだに戦略的価値を持っており、1億ドル以上もの市場が存在するという、揺るぎない事実が存在するためである。それは、コロンビアの麻薬産業と同じで、倫理的にその行為が「悪」であり、国際的批判を受けると分かっていても無くなるものではない。作る側にとって、それは生活するための糧であり、その仕事なしには生きていくことができないのであるから。そして何より、巨大な需要が存在することが問題である。本事業コンセプトは、その地雷が持つ戦略的有効性を低減しようとするものである。その上で、日本の技術力とマレーシアの生産力はベストマッチな関係にあり、南アフリカの軍産複合産業よりも、競争力のあるタスクフォースを構築できると私は考えている。そして、多くの協力と知識を結集すれば、それは実現可能なものである。

この事業コンセプトのトップページに書いている"Strategic Peace"「戦略的平和」は、国際的な戦略的提携により、地雷の有効性を低減することを主旨として考えたサブタイトルである。米ソ冷戦が終結し、混沌とした世界情勢の中にあって、単に"Peace"だけを追求する事は不可能であり、ボスニアやアフガニスタン、中東などでその事は証明されている。いくら多数の世界世論が「平和」を口にしようとも、紛争当事国にとってそれはただの雑音でしかない。彼らにとってその行為は「聖戦」であり、その過程で非人道的といわれる地雷を使用することへの迷いはない。
国際世論がそのような行為を本気で諦めさせたいのであれば、「戦略的」という言葉を重視する必要があるのではないか。



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