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第2章:現状把握

日本企業のアウトソーシングに対する認識

日本におけるアウトソーシングの状況としては、図2-1の様に1998年に経済産業省が行ったアンケート調査によると、77%の企業が何らかの形でアウトソーシングを利用している結果が出ている。ただ、近年における情報ネットワークの劇的な普及により、IT分野を中心としてアウトソーシング活用の割合はさらに増えているものと推察される。

また、アウトソートングを活用している理由としては、「外部専門性の活用」と「コスト削減効果」といった企業内業務の合理化・効率化を目的とした項目の比率が際立って高く、情報化の目的と同様に戦略性の高い「経営本業への集中」や「新規分野への進出」といった理由で活用している企業は少ない結果が出ている。そのため、日本においては『短期利益追求型』のアウトソーシングに対する需要が高い傾向にあると言える。ここで言及している『短期利益追求型』とは、自前でやるより安くて同じサービスが得られるならば、外部の業者に任せようといった発想に基づいており、米国では1980年代に全盛を迎えていた活用目的である。ただ、現在では欧米各国ともアウトソーサーの専門性を積極的に利用し、より長期的な利益追求を目指す形態(『コーソーシング』)や、必要な機能を外部から取り込み、新規事業に進出する際に不足する部門の業務を外部の専門企業のサービスでカバーしようという戦略的提携関係に近い形態(『価値創造型』)が増えている。

 

[図2-1 アウトソーシングの活用状況]

[画像のクリックで拡大表示]
Information resource:経済産業省(1998年度実施アンケート、回答企業482社)

 

[表2-1 アウトソーシングの発展段階的整理]

次にアウトソーシングを利用している日本企業は、欧米企業のように経営革新を目指した積極的な活用というより、自社コスト削減の一環として、コストがかかっており、しかも出しやすい部門を外部に託する形が主流にある。このような背景があるため、アウトソーシング活用の効果については85%もの企業が「効果があった」との印象を抱いており、「あまり効果なし」は7%にとどまっている。

 

[図2-2 アウトソーシングの効果]

Information resource:経済産業省(1998年度実施アンケート)

 

さらに、日本ではアウトソーシング先の決定方法に「自社との関連性を」を考慮する割合が大きく、大企業ほど概ねそれを重視する傾向となっており、従来からの系列内取引の枠組を脱却できないでいる。そのような影響から、アウトソーシング先の決定理由に関しても、「自社との関連性」が24%と「価格」や「実績」、「信頼性」よりも高い数字となっている。ただ、30.8%の企業は資料や評判等でアウトソーシング先を決定しており、また国際競争が激しくなればなるほど、アウトソーシング先の決定理由において「自社との関連性」を重視する傾向は減少し、代わりに「サービスの品質・水準」や「価格」、「信頼性」の割合が高まっていくものと思われる。

以上のように、日本企業のアウトソーシングに対する認識としては、コスト削減を中心とした『短期型利益追求型』が主流であり、「サービスの品質・水準」がアウト-シング先の決定要因として強く働く傾向にある。また、欧米企業と異なり、日本の大企業では未だに「自社との関連性」が重視されており、アウトソーシングそのものに対する捉え方が発展途上にあると結論付けられる。

 

[図2-3 アウトソーシング先の決定方法]

Information resource:経済産業省(1998年度、回答企業1,186社)

 

[図2-4 アウトソーシング先の決定理由]

Information resource:経済産業省(1998年度実施アンケート)

 

 

手書き図面トレーシングに対する一般的な日本国内の業態

図2-5は、一般に日本国内の企業が手書き図面のトレーシング業務を外部に委託した際の代表的なモデルを簡略化したものである。図で示す通り、通常はカスタマーがアウトソーシングを専門の業者に仕事を依頼し、そこから在宅主婦などに発注されるケースが多く、コスト性追求を主体とした形態となっている。また、一連の流れは全て日本国内で完結するものが体勢であり、『一国内フルセット型』と呼称することができる。

[図2-5 日本国内の業態例]

 

このようなビジネスモデルが発展した背景には、情報通信技術の発展により、日本では半数近くの国民がインターネットユーザーとなり、企業と在宅主婦などの SOHOとの距離が縮まったこと、そしてユーザーフレンドリーなCADソフトの開発が大きく影響している。また手書き図面の発送についても、各家庭への FAXの普及やスキャナー技術の向上などによって通信網による受け渡しが可能となり、時間と空間の制約が少なくなったことが挙げられる。

カスタマーとしては、中核業務外の仕事に新規投資を必要とせずに安価で高品質な労力を外部から得ることが可能となり、在宅主婦としてもパソコン一つで家事をこなしながら仕事ができることにメリットを見出し(図2-6参照)、国内において急成長を遂げている。総務省の調査によれば、国内で約500 万事業所、約1,500 万人以上がSOHOなど在宅の形で就労していると推定されている。そして、このビジネスモデルがもたらす付加価値としては、

などがある。ただ、このような構図は日本国内だけの競争で優位性を発揮できるものであり、ボーダーレス化した国際競争の中では更なる改善が必要であると言える。

[図2-6 女性がテレワークを行う際の効果]

Information resource:総務省、情報通信白書2001より

 

 

手書き図面トレーシングに対する米・英・加・豪(英語圏先進諸国)の業態

前ページにおける日本のビジネスモデルに対し、米国やイギリス、カナダ、オーストラリアなど英語圏先進諸国は、シンガポールなどの英語圏の企業に図面トレーシング等の業務を委託することにより、情報通信技術から享受できるメリットを最大化しようとしている。つまり、多国間ネットワークによる国際分業を活用したITアウトソーシングである(図2-7)。ただ、人口300万人のシンガポールだけでは全ての業務をこなすことはできないため、言語と文化を共有する周辺諸国を孫請けとして使用している例も多い。この他にも、スペイン語圏やポルトガル語圏、ドイツ語圏などでも同様の関係が構築されている。

[図2-7 英語圏先進諸国の業態例]

このような形態は図面トレーシングだけに留まらず、数値入力や文書入力のような事務支援業務、給与会計業務などのビジネス・プロセス・アウトソーシング、ソフトウェア開発など多岐の業務に渡っている。日本においても、ソフトウェア開発のような分野ではインド企業に業務を委託する案件も増えているが、言語の制約、文化の違い、手法の違いなどがあり、中々難しい状況にあると言われている(図2-8参照)。とはいえ、国際分業を行っている米国、イギリス、カナダ、オーストラリアなど英語圏の先進諸国と比較した場合、グローバル市場における競争では前述の『一国内フルセット型』の競争劣位は明白である。

次に、このビジネスモデルがもたらす付加価値としては、

などが挙げられる。特にコスト面に関して言えば、英語圏の先進国が採用しているビジネスモデルは、前述の日本の形態よりも遥かに競争力を有しており、コスト競争における有意差は明らかとなっている。さらに、その仕事に従事しているのは、シンガポールやマレーシア、インドの高い専門スキルを有したエンジニアクラスの人間である。

[図2-8 インドのソフトウェア輸出先比率]

Information resource:インド政府出典"Economic Survey2001-2002"より

 

 

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