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第6章:競争優位性確立に向けて

はじめに

競争優位性確立といえば、付加価値性を高めるための複雑なロジックの構築や他社にないサービスの提供などが考えられるが、ITアウトソーシングではいかにして滞りなくスムーズに業務を展開するかといったベーシックなものこそが重要といえる。そこで、表6-1では『アウトソーシングを巡るトラブル』と『発生理由』を一つの表としてまとめ、さらに、図6-1ではトラブル件数をパレート図に反映することにより、日本のアウトソーシング業において問題とされている項目を明確にしている。

[表6-1 アウトソーシングを巡るトラブルと発生理由]

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[図6-1 パレート図によるトラブルの分析]

[図6-2 トラブルとアウトソーシング先決定方法の関係]


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 アウトソーシングのトラブルとしては、「品質(Quality)」、「コスト(Cost)」、「納期(Delivery)」の問題が特に顕著であり、これらの事例だけで全体の約8割を占めている。これらトラブルの原因は、アウトソーサーのレベルと姿勢、契約時のつめの甘さや相互理解の欠如、実施後の連携・協力体制の不備などに起因している。また、情報通信技術の発達により、IT技術を活用したアウトソーサーが増加傾向にあるとはいえ、日本におけるアウトソーシング事業そのものが発展途上であるといえる。

さらに、アウトソーシング利用企業にとっても、アウトソーシングの目的や管理、またアウトソーサーの選定や契約など自己責任が問われる領域も存在している。また「トラブルとアウトソーシング先の決定方法の関係」を見ると、『自社との関連性』によってアウトソーシング先を決定した際にトラブルが発生するケースが多く、全体のトラブルで4割を占めるに至っており、選定においては客観性が要求されることを示している。

 主要トラブル項目に対する『フィードバック型国際分業』の考え

前項の内容を踏まえ、『品質』、『コスト』、『納期』の3大トラブルについて、当該フィードバック型国際分業ではどのような対応を行うことによってトラブルを回避し、カスタマーの業務を滞りなく、スムーズに進めて行けるのかについて示す。内容そのものは、これまで述べてきたことを踏襲しており、新しいことには触れていない。

【品質が低い】
当該ビジネスモデルでは、国そのものが工業化によって発展し、製造業において高い専門スキルを有したマレーシア技術者の労力を活用することにより、図面トレーシングにおける品質の劣化を防ごうとしている。また、受け入れる仕事に関しても、日本の在宅主婦がこなしているレベルのものをターゲットとしている。そのため、フィードバック型国際分業というビジネスモデルでは、在宅主婦など国内SOHOと連携することができ、そこでチェック機能を働かせている。以上から、品質にまつわるトラブルをある程度回避することは可能である。

【コストアップ】
ポテンシャル・カントリーの章で述べた通り、マレーシアの人件費は中堅のエンジニアクラスでも日本もアウトソーサーよりコスト競争力を有しており、トータルのバランスにも優れているため、このトラブルに対してあまり問題視されないと考える。ただ、国際市場でのコスト競争力を考慮した際、マレーシアのコスト優位性は不動のものではなく、将来的にはインドや中国といった市場が躍進するものと予想される。そのため、言語・文化・民族の繋がりを活かし、マレーシアをハブとしてインド、中国への孫請け展開を可能とさせることにより、コスト面での永続性を狙っている。

【納期が遅れる】
納期に関しては、フィードバック型国際分業では作業工程が増え、効率を低下せざるを得ないのはこれまで述べてきた通りで、国際競争力のあるコスト性を追求するがために発生するデメリットである。情報通信技術が発達しても、この問題を回避することはできない。そのため、カスタマーとしてプライオリティーの低く、コスト性の追求が特に要求される業務に特化することにより、納期に対する注意を引き下げている。また、マレーシアを事業の起点とすることにより、電力供給や通信障害と言った企業レベルでは回避できないリスクを低減することを可能としている。

まとめ

いずれにしても、アウトソーシングといった分野で競争優位性確立のためには、トラブルが発生しにくいプロセスと、トラブルが発生した際に早急な原因追求と適切な処置を施すプロセスを構築し、その情報をアウトソーシングするためのノウハウとしてとして蓄積し、日々の業務に反映させていくことが求められる。トラブルが発生しにくいプロセスについては、前項の3大トラブルの説明で述べた通りであるが、トラブル発生時の対応としては、以下のような対処項目が求められる。

≪トラブル発生時の対処方法≫

結局のところ、Q・C・Dといった項目について、しっかりとしたプロセスさえ確立されていれば、図6-3に示すように必然的に顧客満足度は向上し、競争優位性に繋げることができると言える。

日本では、アウトソーシングといった業態そのものが発展途上ではあるが、ISOのような文書化・記録化の手法を採り入れることによって、仕事の質を高く維持することは可能であり、プロセス管理によってトラブルや問題の防止、回避、スムーズな対応に役立つと考える。特に、事業対象国としているマレーシアは『日本的経営』を早くから採用し、日本的経営によって繁栄している国であり、個々の労働者がISOなど品質管理手法に対する認識が高いだけでなく、5Sといったものにも精通している。こうした基本的な部分をしっかり遂行することによって、『フィードバック型国際分業』による本来の価値が発揮されると言える。

[図6-3 競争優位性に向けて]

 

 

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