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第2章:リサイクル対象国としてのマレーシア

はじめに

ここでは、日本の中小規模の自動車関連リサイクル技術が、アジアにおいて事業としての経済性を見出し、永続性を追及できるパイロットテ的なモデルケースを構築する上で、何が必要な要素となり、それを満たしている国が何処なのかを見出そうとしている。そこで、まずビジネスモデル対象国として必要とされる項目として、「リサイクル後進国」、「成長期局面の自動車社会」、「中規模の自動車社会」、「言語・民族・文化の共有」、「高スキル労働者の存在」の5つを挙げ、この全てを満たしている国をポビジネスモデル対象国としている。

 

リサイクル後進国

まずここでは、日本の自動車関連のリサイクル技術が、アジア全域において有効となるパイロット的ビジネスモデルの構築を念頭に置いているため、当該分野において後進国であることが肝要となる。つまり、中国やインドといった将来の巨大市場を見据えた場合、リサイクル先進国のビジネスモデルでは不整合が生じることを考慮しているためであり、できるだけアジア全域で通用するビジネスモデルの構築を目指すために、まずはリサイクル後進国であることが適当と判断した結果である。

現在、世界の自動車リサイクル産業を牽引しているのは、間違いなくGROUP1の欧米先進諸国と日本であり、開発、生産、利用、廃棄といった一連の自動車ライフサイクルを対象とした環境への配慮がなされている。このグループは世界の自動車市場の72.6%(図1-6参照)を占有しているため、現状において環境への影響力が最も高く、そうした意味においてリサイクル先進国であることは望ましい。
しかし、これ以外の国では、今だに有効なリサイクル技術が存在しないため、昔ながらの手法によって使用済み車両を処理することを余儀なくされており、先進諸国と比べてリサイクル可能率は低くならざるを得ない状況である。さらに、市場に15年以上前の老朽車が道路に溢れていることが、リサイクル可能率の低さに拍車をかける結果となっている。

このような格差拡大を是正するためにも、北米諸国の技術は中南米諸国へ、欧州先進諸国の技術は東欧諸国へと技術の還流が引き起こされている。当然、日本の技術は地理的、または現地における日本車の比率が高いことから、アジア諸国へ寄与すべきであるが、一部のODAプロジェクトを除いては、欧米諸国ほどにこの分野での技術還流が進んでいないのが実情である。そのため、日本を除いたアジア全域が、リサイクル後進国であると言うことができる。

 

 

成長期局面の自動車社会

[図2-1 モータリゼーションの要因]

 

前述において、当該ビジネスモデル構築のためには「リサイクル後進国」であることが望ましいとしたが、これだけで事業対象国を選定することはできない。モータリゼーションを迎え、リサイクル産業にとって経済成長と自動車普及のバランスに優れていることが必要であり、そこから日本のリサイクル技術に対するニーズを喚起することが可能であると考える。つまり、どれだけ市場にリサイクルすべき廃車や老朽車が溢れていようとも、経済成長が伴っていなければ環境に配慮した社会を形成しようとのロジックは働きにくく、高度リサイクル技術やコストを必要とするのであれば、安易に埋立などの処理に依存してしまう傾向にあるためである。特に、中国やインドのように広大な国土を有する国において、その傾向が顕著に現れやすい。

アセアンにおいては、マレーシアが一人当たりのGDPでUS$3,000を超え、モータリゼーションの兆しが見えており、自動車社会が成長期を迎えている。アジアNIEs諸国についても、高い個人所得を背景に、台湾と韓国の自動車社会が成長期に位置している。これら諸国においては、中間所得者の比率が大きく高まり、マイカーを購入できる余裕を持った世帯が劇的に増えており、日本を除く他のアジア諸国と比べて経済成長と自動車普及において優れたバランスを呈している。マレーシアを例に挙げると、現地では老朽車の比率がまだ高いものの、着実にその数は減少しており、消費者の嗜好も「安くて乗ることができれば何でも良い」から、「より性能の高いもの」、「よりデザイン性に優れたもの」へと欲求が移行している。そして、クアラルンプールなどの大都市圏では、「排気ガス」や「燃費」といった環境面での性能も、購買決定の要素として働くまでに至っている。これは、韓国とマレーシアの自動車社会が、幼稚期の局面から老朽車による大気汚染に悩まされていたことが大きく影響しており、結果、日米欧の先進諸国よりも早い段階で、消費者の環境に対する認識を高めることとなっている。

また、台湾とマレーシアは二輪車の所有率で世界の上位に位置しており、保有台数も決して少なくない。そして、モータリゼーションの発現は二輪車市場にも影響を及ぼしており、台湾とマレーシアでは10代後半や20代前半の若者が個人でオートバイを所有しているといったことも珍しくない。特にマレーシアでは、最近の経済成長から購買嗜好がスポーツタイプや高級車にシフトしており、価格よりも性能やデザインで選ぶ傾向が強くなっている。

以上のように、自動車社会が成長期の局面を向かえたこれら3ヶ国は「リサイクル後進国」であるけれども、消費者の嗜好は「安かろう悪かろう」から、着実に先進諸国の購買嗜好に近づいており、大都市圏では『環境への配慮』といったことが、自動車購入において大きく作用するまでに至っている。

 

中規模の自動車市場

これまでの実績から、スウエーデンやスイス、ベルギー、オランダといった中規模の自動車市場を持つ国が、周辺のドイツやフランス、イギリスといった自動車大国よりも環境産業において秀でていることはあまりに有名である。それは規模の経済性や柔軟性であったり、波及速度であったりと、中規模市場特有の効果の発揮し易い特徴を持っていたためであり、ヨーロッパ諸国におけるビジネスモデル的な立場となっている。そしてこの概念は、アジア諸国においても経済成長が伴っていれば通用するものであると考え、ここでは自動車市場が中規模の国に焦点を当てている。また、ITの分野では一足先にこのような概念の下に様々な試みが行われており、例えばマレーシアでは証明、免許証、出入国記録、健康管理情報を入力した電子カードが世界で初めて国民に発給され、世界に電子カード社会構築のモデルを提示している。

[2-1 アジア諸国における市場規模]

 

次にここで言及する中規模の市場とは、現在の乗用車保有台数を示すものではなく、人口による絶対量を示している。つまり、インドネシアの自動車保有台数はタイと、インドは台湾と、中国は韓国とほぼ同じ数字であるが、潜在的に秘めている市場性は大きく異なる。そのため、パイロット的なビジネスモデルを構築する対象国としてこれら大国は適しておらず、スウエーデンやスイス、ベルギー、オランダと同様の効果を発揮することは期待できない。そうした意味において、アジアNIEsの台湾と韓国、そしてアセアン4ヶ国が中規模の自動車市場を有していると言える。
また、柔軟性と波及速度だけを捉えると、シンガポールや香港のような高所得で小規模な市場の方が有利と考えられがちである。しかし、シンガポールや香港では、経済的実力よりも自動車普及が進んでおらず、自動車産業育成も未成熟であり、規模の経済が働かないことから、対象外としている。

 

言語・民族・文化の共有

環境に対する思いは万国共通であり、リサイクル技術から享受できる恩恵を先進諸国だけが独占すべきでないことは、誰もが認めるところであろう。そして、将来的な観点から言えば、先進諸国よりも発展途上国の方が深刻な環境問題を内包しており、中国、インド、インドネシアの3ヶ国がモータリゼーションを迎えれば、その規模は北米、欧州の比ではなくなる。また、規模の経済が働くこの分野にあって、この潜在的な巨大市場を無視することはできない。ここでパイロット的なビジネスモデルの構築を念頭に置いているのには、そうした市場へのスムーズな展開を目指してのことであり、言語、民族、文化の共有は重要なファクターとなる。

IT産業においても言えることであるが、言語や民族、文化の繋がりは、こうした国境を超えた事業展開において重要な要素となる。例えば、中国へ事業を拡大しようとした場合、中小企業であっても社内に中国系の人間がいれば容易なコミュニケーションが可能となり、中国人独特の経営手法や文化の違いに悩まされるといった問題も軽減することができる。そして、情報通信技術がこれほどまでに普及し、時間と空間の捉え方が大きく変容した現代にあって、単一民族というものは競争劣位になれこそ、優位には働かない。工業化の時代にあって、単一民族であることは社内の意志統一や暗黙知の共有に優れており、それが競争力となっていた。その点で、日本は優れた能力を発揮することができていたと言える。しかし、経済がグローバル化する一方で、経済活動にとって国は障害であってコスト・センターにすぎなくなっている。

そうした意味において、シンガポールとマレーシアはマレー系、中国系、インド系などの民族が共生し、複数の言語が飛び交う国であり、中国やインド、アセアン諸国との繋がりが深く、国境超えた事業展開を容易としており、東アジアの殆どの国へのスムーズな事業展開を可能としている。事実マレーシアでは、町工場であろうとも中国系経営者であれば、東南アジア諸国の中国系企業や中国本土の企業との国際取引が日本以上に活発に行われている。

以上のように、シンガポールとマレーシアは21世紀のアジアで強力な経済力を持つであろうインドと中国を結ぶ十字路の結合点に位置しており、それぞれの国と言語・文化的障壁もなく自由に情報交換や意見のやり取りができる国は、世界広しといえどもマレーシアとシンガポール以外にないと言える。

 

高い専門スキル労働者の存在

周知の通り、アジアにおいて日本以外で自国に国際的な自動車メーカーを有しているのは韓国とマレーシアだけであり、この分野においては周辺諸国よりも専門スキルでは一歩先んじている。マレーシアの場合では、プロトン社が三菱自動車から、プロドゥア社はダイハツより技術提携を受けており、完成車の基本性能そのものは日本車と大差ないレベルにまで成長、国産化率もプロトンで約80%、プロドゥアで約50%にまで達している。また、両国では天然ガス自動車のように環境に配慮した自動車も開発されており、環境問題に対する高スキル労働者も育っている。

一般的に、自動車生産には鉄やプラスチック、ガラスといった素材から、機械、電気・電子を始め鍛造・鋳造・メッキ等の基盤工業などさまざまな分野の技術が必要で、そうした技術や産業基盤の育成と発展のためには可能な限り自前の技術や民族資本の育成を図る必要があり、同時に輸入車に対しては高い関税で国内市場と産業の保護を図る必要があるとされている。韓国とマレーシアが行ってきたことは、まさにこれを忠実に具現化しており、その結果、ほぼ自前で自動車を製造できるまでに至っている。

この他にも、中国や台湾といった国でも自前で完成品自動車を製造しているが、政府の過保護政策による自動車メーカー乱立などがあり、国際競争力を有しているとは言い難い。例えば、中国の自動車完成車メーカーは118 社あるが、採算ラインに達している企業は第一汽車、東風、上海汽車のわずか3社しかない。生産台数でも、1999年の時点で中国は米国の13.86%、日本の18.08%、ドイツの31.73%に過ぎなかった。また、資金不足と技術の立ち後れが中国製自動車の低品質を招いている。例えば、最初の故障までの走行距離は、外国車の1.5~2万kmに対して、中国車は1,000~2,000kmであり、自動車の平均寿命も、外国車の20~30万kmに対して中国車は10~15万kmである。

とはいえ、世界中の自動車メーカーがアセアン諸国を中心に直接投資を行っているため、基礎スキルはここ数年で飛躍的に向上しており、域内におけるスキルの格差はほとんどなくなっている。特に、タイは部品メーカーの集積においてもアセアン諸国のなかで群を抜いている。日系メーカーのみならず、フォードやGM の進出によって欧米部品メーカーもタイに進出してきた。その結果、日系完成車メーカーの組立工場のあるバンコク周辺地域から欧米系完成車メーカーの組立工場のある東部臨海地域にかけて、部品メーカーの集積が形成され、近年その厚みが増している。そして、欧米完成車メーカーの進出や日系完成車メーカーの部品の現地調達拡大によって現地需要が増大しており、日本の部品メーカーがコスト競争力のあるタイを日本向け輸出拠点と位置づけて、追加投資を行う動きが多く見られる。

 

まとめ

以上の結果、パイロット的ビジネスモデル対象国としてマレーシアが全5項目の条件を全て満たしており、韓国がそれに続いていることを導き出すことができた。ただ、他の周辺諸国も、自動車社会の成長や専門スキルの向上が進んでいるため、タイ、フィリピン、インドネシア、中国、インドといった順に事業化可能領域が広がって行くものと思われる。

そして、マレーシアと酷似した特徴を有しているのが、環境先進国のスウェーデンである。例えば、国土が狭く、人口が少ないこと、優れた語学力、ブロック経済圏での自由貿易メンバーであることなどがある。言語について言えば、マレーシアではマレー語が母国語として通用しているが、英語が広く浸透しており、中国系であれば中国語も無理なく使用できる。スウェーデンについても、母国語はスウェーデン語であるが、殆ど全ての人が英語を話すことができ、中高年者の多くはドイツ語も使用できる。そして、スウェーデンが環境産業において先進国となった要素の一つに、この多言語国家であることが挙げられる。つまり、海を隔てた隣国ドイツとの技術交流において言語障害がなかったのである。

また、両国とも自国に自動車メーカーを有し、国内市場において競争が生れている。マレーシアであればプロトン社が1,300cc以上の乗用車で、プロドゥア車は軽自動車で市場競争を繰り広げている。スウェーデンではボルボ社とサーブ・スカニア社が乗用車とトラック分野で競争している。この結果、この分において両国ともよく訓練された労働力をもたらし、エンジニア分野での教育レベルで強さを増していった。

このような背景から、スウェーデンは周辺の経済大国よりも環境産業を効果的に波及することができ、自動車社会が成長期局面を迎えたマレーシアも、同様の要素を十分に内包していると考える。

ただ、スウェーデンとマレーシアにおいて決定的な違いがある。それは、スウェーデンの「安全」と「環境の質」、「公共福祉」に対する極端とも言える価値観である。安全性について言えば、スウェーデン政府はドライバーに常時ヘッドライトを点けることを強制し、シートベルトも3点式ベルトの装着と後部座席でのシートベルト着用を義務付けている。こうた価値観は、環境保護の面においても広範な製品やサービスに対する先進的な需要を生み出し、企業に重要な競争優位性を齎している。そのため、スウェーデンでは自動車社会が幼稚期の局面からリサイクルに対する認識が高く、たとえ利益を生み出さなくとも、環境に優しいのであれば受け入れようとのロジックが働き、世界有数の環境先進国としての地位を確立するに至っている。
ただ、価値観の相違は、「環境」に対するロジックの働きが早いか遅いかの違いでしかない。一般的に見れば、スウェーデンのようなケースの方が稀であり、通常は自動車社会が成長期の局面を迎えてから、「環境」に対する需要が生み出されるものである。そうした意味において、マレーシアは十分な潜在性を有していると言える。

この他にも、マレーシアがパイロット的ビジネスモデル対象国として優れている点として、

などが挙げられる。

世界規模で見ると、東欧諸国、南米のブラジル、チリもマレーシアと同様に一人当たりのGDPが3,000ドルを超え、モータリゼーションを迎えつつある。同時に、大量消費される自動車から派生する環境問題に対する関心も高まり、リサイクル事業の可能性を有している。とはいえ、東欧諸国に対しては環境先進国である欧州企業が地理的諸要素から繋がり深く、南米に対しても北米企業にアドバンテージがある。そうした理由から、日本のリサイクル技術はアジア諸国とのグローバル・パートナーシップに重きを置くべきと考える。また、アジアにおける市場規模だけを捉えると、東南アジア諸国よりも中国の方が遥かに大きな潜在市場を有しているが、中国の自動車需要は飛び地であり、さらにリサイクルに対する意識の低さ、関連法の未整備など、課題が多く山積されている。

 

 

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