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マレーシアのインターネット事情 (全体像)

現在、マレーシアで個人ユーザーがインターネットに接続手段は下記の4つ(WLLは山間地域に特化したサービスのため実質3つ)。日本や韓国と比較すると、その選択肢は極端に少ない。また、世界的にブロードバンド接続の需要が高まっている中、マレーシアのインターネット環境はナローバンドしかサポートできない状況である。

[個人ユーザー向けインターネット接続方法]

現在、ユーザーの選択肢が少ないことから、マレーシアのインターネット環境の構造は二極化の傾向が顕著に現れている。つまり、下図のような空白ゾーンが生まれてしまっているのである。本来、このゾーンは最も需要が多いマーケットであり、多くの個人ユーザーや企業が存在している。しかし、このゾーンをサポートするサービスが存在しないため、この市場の潜在カスタマーはパフォーマンスの低いダイヤルアップ接続を利用せざるを得なくなっている。

[マレーシアの各インターネットサービスのポジション]

本来、この空白ゾーンにはxDSLやCATVインターネット、専用線(LAN経由)などサービスが多数存在し、最も注目を集める市場である。技術的障害もあるが、ISPの数が少なく、それがサービス改善のにつながる適度な競争を生み出していないことが主な原因と思われる。また、ISPの数が少く、事業者間の競争が少ないことも関連している。現在、マレーシアで利用できる主なローカルISPは下記の通り。

[マレーシアの主なローカルISP]

 Jaring
  MIMOSが運営する一次プロバイダー

 TMNet
  Telekom Malaysiaが運営する一次プロバイダー

 MALAYSIA ONLINE
  Jaringに接続している二次プロバイダー

 Maxis Net
  モバイルサービス、無料ISP(SURF FOR FREE)も提供しているISPで、マレーシアでは最も積極的に事業を展開

 Nasio net
  TMnetに接続している二次プロバイダー

 Putra.Net

 Silicon Navigator

 mysingtel
  シンガポールのSingTelとLycosが提供する無料ISP

 Zapsurf
  シンガポールのSingNetと米Freei.Netが提供する無料ISP

このほかに世界的ISPがマレーシアでサービスを提供しているが、料金はローカルのISPより高い。
このような状況は、インターネットユーザーにとって不利益であり、IT産業発展にとってもマイナスだと考える。また、政府も過度の競争嫌ってか、ISP事業の認可に消極的であり、各社の料金も横並びになるよう勧告していると聞く。つまり、MSCなどのオープンな国家戦略を重視しつつ、国内市場の保護政策を行うという国家戦略構造の矛盾が感じられる。


 

個別サービス分析

Dial-up サービス (ISDNを含む)

現在、マレーシアのほとんどのユーザーが使用しているのがダイヤルアップ接続で、一般ユーザーはもちろん多くの企業も利用している。日本のように、専用線 =企業という構図はあまりない。また、ダイヤルアップでは常時接続ができないため、企業はインターネットを十分に事業に活用できていないのが実情。実際、ほとんどの企業はメール程度にしかインターネットを利用していない(というより利用できない)。そのため、メールによるコミュニケーション手段は非効率的とも言える。

ISDNはヨーロッパ仕様の方式を導入している。日本や韓国ではある程度のインセンティブを獲得しているISDNだが、マレーシアでの需要はそれほど高くない。ISDN普及の障害は初期導入コストにあり、個人ユーザーがそれを負担することは困難な模様。

利用料金は日本より割安感がある。これは電話料金が日本より安価なためである。ISP料金については、ほとんどの事業者が従量制を採用している(最近では、一部の二次プロバイダーがフラットレートを採用し始めている)。短時間の利用であれば日本よりかなり割安だが、長時間(1日1時間以上)に渡って使用する場合は日本の無制限サービスの方が安いこともある。このことは、マレーシアのインターネット発展を阻害する障害の一つとなっている。
平均的な利用料金はISPへの支払いが1cent/分、電話料金はローカルコールの場合3cents/分である。また、一次プロバイダーのJaringと TMnetが提供している専用電話番号(Jaringは1511、TMnetは1515)を使用すれば、電話料金は国内何処からでも1.5cent/分で接続できる。
 また、法人が使用する場合のISP料金は2.5cents/分、ISDNは4cents/分となっている。

日本では品質・信頼性が高まったダイヤルアップ接続だが、マレーシアでのダイヤルアップ品質は不安定な状況が続いている。以下はマレーシアのダイヤルアップ接続において上位を占めている問題点である。

ダイヤルアップ接続の主な問題点

 "BUSY"状態が多い

 回線が度々ネットワークから切断される

 メールが届かないことがある

日本でも、数年前まではダイヤルアップ接続はISPによって回線に"BUSY"状態が多いとかネットワークから切断されるといったトラブルはあった。しかし、マレーシアのそれは日本の常識をはるかに超えて頻発していた。また、メール送受信の失敗率も高く、サーバーダウンも多発していた。現在、このような状況は多少改善されているようだが、品質に対する問題はまだ山づみである。ただ、海外から進出してマレーシアにアクセスポイントを持っているISPを使用すればこのような問題は軽減されるが、利用料金が割高になってしまう。つまり、一般のローカルユーザーにとって日本のような確実性がいまだ確立されていないのが実情である。しかし、他にインターネットにアクセスする選択肢も無いことから、マレーシアのインターネットユーザーはこの状況を受け入れざるを得なくなっている。また、この電話回線に依存しなければならない構造は、インターネット=電話回線と言う概念を定着させてしまっている。

無料ISP

無料ISPと言えば英国だが、近年マレーシアでも数社がサービスを提供している。事業運営に関しては、広告配信や電話回線の移転などの方法で収益を得ている。現在サポートしているのはPSTN回線のみで、ISDNはサポートしていない。サービスの品質や需要等の詳細は不明。

専用線サービス

マレーシアのISPが提供している専用線サービスは帯域保証型の専用線のみ。先進国のようにな非同期転送モードによるサービスはマレーシアでは聞かない。現在一般に提供されている専用線料金はかなり高価であり、日本の多種多様な専用線(無線を含む)サービスのほうが安価である。そのため、専用線を利用できるユーザーは限られてしまい、市場はそれほど成長していない。また、マレーシアで唯一定額で常時接続が可能なこのサービスだか、ローカル企業が気軽に導入できないことから産業の発展を阻害し、企業活動における国際間の情報格差を拡大していると思われる。


注)RM1 = 30円で算出。

WLL (Wireless Local Loop)

ダイヤルアップ以外の一般ユーザー向けサービスとしてTelekom Malaysiaが提供しているTMWiLLというワイヤレスサービスがある。これは山間部の電話回線が整備されていない地域(約12万人)へのサービスで、音声とデータの伝送が可能。データ伝送速度は9,600bpsで日本のPDCタイプの携帯電話と同じ。利用料金は加入者電話と同じ料金体系となっている。
また、利用周波数は不明だか、アンテナ形状からVHF帯域ではないかと思われる。その他の技術的なことはアナウンスされていないので不明だが、このサービスはマレーシア政府が推進している8ヵ年計画の一翼を担っている。

[8ヵ年計画]

 全国民にインターネット接続提供

 田舎に住む利用者の為にワイヤレス環境を整備

 年金積み立て金から退職前でもコンピューター購入のための引き出しが可能など

Internet Hotel

ここでのインターネットホテルとは、専用回線によって常時接続が可能な環境を宿泊者に提供しているホテルを呼ぶ。日本では各地で導入が進んでいるインターネットホテルだが、マレーシアでも一部の高級ホテルでは同環境が整備されている。プロモートを行っているのは豪州のベンチャー企業inter-tech Pty. Ltd. で、VBN (Visitor Based Network)というシステムの導入を展開している。
システム概要は、ホテル構内に既存の電話回線を利用したVDSL(Very high-bit-rate Digital Subscriber Line)を設置し、専用線でISPに接続するというもの。システムに使用している機器は3Com製だと思われる。このシステムにより、宿泊者は10MbpsのLAN環境を利用できる。日本ではプリンスホテルが同じシステムを導入している。マレーシアでこのシステムを導入しているホテルは下記の通り。

- Hotel Equatorial Kuala Lumpur
- Hotel Nikko Kuala Lumpur
- Ming Court Vista Hotel
- Park Plaza International Hotel
- Dorsett Regency Hotel Kuala Lumpur
- Crown Princess Kuala Lumpur
- Grand Bluewave Hotel Shah Alam
- Capitol Kuala Lumpur
- Federal Hotel
- Plaza Premium Lounge, KLIA
- Mercure Ace Hotel - Johor Bahru

これらホテルのインターネット環境は先進国並であるが、主な利用者は海外のビジネスマンに限定されてしまうであろう。

インターネットが普及しない理由

マレーシアのインターネット普及率(1999年)は6%台と低い。これは1997年初めの日本の数字とほぼ同じである。インターネットが一般ユーザーに普及しない理由としては、マレーシア人にとってPC端末が高価などの金銭的問題が主であるが、ここではインターネット接続環境について分析する。
まず、現在のマレーシアのインターネット環境は、利用者にとって満足できるものではない。主な理由は4つに分類される。

 料金体系

 品質が悪い

 パフォーマンスに魅力がない

 選択肢が少ない

料金体系だが、現在最も一般化している従量制では、利用者は安心してインターネットを利用できないでいる。また、常時接続サービスがないため、利用者は電話回線に依存しなければならず、毎分加算される電話料金を気にしなければならない。そのため、利用者のインターネット接続時間は短くなってしまい、ネットオークションやオンラインショッピングなどe-commerceの利用率も低い。この状況は電子商取引関連産業の発展を阻害し、市場に悪循環を招いている。
次に、品質については上述した通りである。テレビを見るように安心して確実に利用できないものに対しては、利用者は徐々に興味を失ってしまうし、そのようなサービスに対して料金を支払いたくなくなるのは当然である。
また、ナローバンドしかないマレーシアでは、利用者が享受できるサービスに限界がある。ネットサーフィンとメール交換をするだけのサービスでは魅力が薄い。インターネットによって得られる価値が高ければ高いほど、その魅力が増すのであって、そのためにもパフォーマンスは重視されるべきである。
最後に、選択肢が少ないことは最も重要な問題である。高速のインターネットを長時間使いたいヘビーユーザーも、常時インターネットに接続したい中小企業も、1週間に一度しかメールをチェックしないユーザーも同じ電話回線で同じ速度でしか接続できないでいる。つまり、利用者の需要が市場に反映されていないのである。

このような問題は、マレーシアの産業構造において悪循環となって現れている。そのため、インターネットに対する需要が低調であり、電子商取引などの事業に反映されず、IT産業の発展を阻害する結果となっている。これら問題を短期間で解決し、インターネット先進国に仲間入りしたのが韓国である。数年前まで、韓国もマレーシアと同じような状況であった。だが、政府指導により状況は劇的に改善され、産業構造に好循環をもたらしている。今では多くのユーザーが高速の常時接続インターネットにより、利用者が高価値を享受している。

 

マレーシアのポジション

マレーシアの一般ユーザーに対するインターネット環境は世界的に見てどの位置なのだろうか?下の表は、インターネット普及率とGDP当たりの利用料金を一つにまとめたものである。データは1998年のもので若干古いが、その当時アジアの通貨危機の影響を受けたマレーシアと韓国のインターネット事情は近いポジションに位置していた。むしろ、当時の増加率はマレーシアの方が高かった。しかし、韓国は1999年以降、ブロードバンドの劇的普及に伴い、現在では、日本より上のポジションへ推移している。また、シンガポールや日本も着実にインターネット普及率が上昇し、それに伴い対GDP比の利用料金も確実に安くなっている。翻ってマレーシアを見るとどうだろうか。マレーシアではインターネット人口は多少増加したものの、対GDP比の価格変動にはほとんど変化がない。MSCなどの世界的に注目を浴びるプロジェクトがある一方で、一般ユーザー向け市場は寂しい状況といえる。

[インターネット普及率と利用料金]

注)
 Information resource: ITU, 世界銀行
 利用料金は各国代表のISPの月額基本料金、20時間の利用料、リース料
 1998年データ

[インターネット普及率と増加率]

注)
 Information resource: ITU
 普及率は1998年データ
 増加率は1995~1998年の年平均増加率

では、1998年まで同ポジションにいた韓国との違いは何か?民族性、経済性などの諸要素は省き、インターネットの接続環境だけに注目した場合、下図のような傾向が得られる。インターネット先進国であるアメリカはもとより、日本と韓国は定額制によるブロードバンド接続の方向へ舵をとっている。つまり、当たり前に高速のインターネットを料金を気にせずに使用できる基盤の構築を目指しているのである。そのためにも、"全国展開"や"事業者間の競争促進"、"低廉化によるサービスの多様化"が必要となってくる。このような要素を認識しない限り、いくら上位レベルで世界規模のプロジェクトを推進しても、国家間のディジタルデバイドを縮小することは不可能である。

[各国が目指している方向性]

つぎに、マレーシアのIT事情は世界的に見てどのくらいの位置にあるのだろうか。2001年にIDCとWorld Timesが発表した情報社会指数(ISI: Information Society Index)では、マレーシアは32位に位置している。この指数は世界のGDPの97%およびIT支出の99%を占める55カ国のデータを集め、「コンピュータ,情報」、「インターネット」、「社会資本」の4部門のインフラに関するデータに基づいて評価を行ったものである。

マレーシアのISIは1999年から3ランクアップしているが、これは携帯電話の普及向上によるものである。ただ、東南アジアではシンガポールに次ぐランキングは評価できる。

 

[東アジアのISIランキング推移]


Information resource: IDC, World Times

上記のように、東アジアのIT事情は2極化の色が濃く表れている。マレーシアはその中間に位置しており、今後は日本が含まれるグループに近づくものと予想されている。そのため、同国のIT産業に対しての期待が益々高まるであろう。

 

MSCの価値

アジアのシリコンバレーを目指しているMSCだが、本家本元のシリコンバレーとは大きな違いがある。サイバージャヤを有するMSCは、ジャングルだった土地を切り開き、ゼロからIT都市を構築するというもの。そのため、電気や水道などの基本インフラ整備も整備しなければならず、居住者もまだ少ない。

対して米国のシリコンバレーは元々サンフランシスコ近郊の静かな地方都市といった雰囲気の町だった。街中の交通手段は豊富で、空港・電車・バスなどが整備されており、フリーウェイも空港近くを縦断している。近くにUCBスタンフォードといった大学を有しており、元々IT関連のベンチャービジネスが盛んであった。このような環境がIT事業において魅力的に働き、世界中から関連企業が集結するようになった。

また、台湾の新竹も元々電子部品を取り扱った中小企業が密集していた都市であり、IT産業発展に伴い、これら中小企業はIT関連の仕事を主に手掛けるようになった。そのため、現在ではIT関連企業が集結するような都市に変貌したという経緯がある。

つまり、これらの土地では地理的競争優位性が世界的にベストな状態にあったといえる。マレーシアはこの競争優位性をゼロから構築しようとしている。

ただ、MSCを進めるにも、電子商取引や電子政府を提唱するのも、まず土台として人々がコンピューターを利用し、インターネット接続を当たり前の世界とさせることが絶対必要となる。その上で技術開発やビジネスプラットフォームが形成され、最終的にMSCなどの包括的プロジェクトに行きつくのではないか。そう言った意味において、現在のマレーシアのIT産業構造のバランスは偏りがみえる。つまり、真にMSCなどの国家プロジェクトのパフォーマンスをフルに発揮するためには、一般利用者や中小企業のインターネット環境を整備する必要があると考える。

 

日本政府による支援

2000年7月、日本政府は九州沖縄サミットにおいて、アジアのディジタルデバイド解消のために今後5年間で150億ドル程度を目処とした包括的協力策を表明した。さらに、2000年11月のブルネイで行われたAPEC首脳会談では、相当部分がAPECメンバーの中で、特に日・ASEAN協力のために重点的に活用されることが表明された。柱となる支援策は;

 ITはチャンスとの認識の向上及び政策・制度作りへの知的支援

 研修・人材育成を中心とする人造り支援

 情報通信基盤整備及びネットワーク化への支援

 開発援助における積極的なIT利用の促進

協力を行っていく際には、世銀のIT向けイニシアティブへの参加等、世銀、UNDP、ITU等の国際機関との連携を重視することになる。具体的施策内容は2001年4月に決定される予定だが、最終的には日本のe-Japan構想とASEAN各国が推進しているe-ASEAN構想を融合したe-ASIA構想へ向けていくものと考える。


ただ、IT分野は民間主導で発展する分野であり、公的部門の役割は専ら民間の積極的な取り組みに対して政策及び人材育成等を中心に補完的に協力することである。日本は、これを踏まえつつ、国際的な情報格差解消のために、今後5年間で合わせて150億ドル程度を目途とした非ODA及びODAの公的資金による包括的協力策をすることになる。そのため、マレーシアのIT事情を変革するのは、個々の企業努力に委ねられているのである。

 

まとめ

マレーシア政府は8ヵ年計画で、「全国民がインターネットへ接続」という目標を揚げているが、それを計画通りに実現することは難しい。さらに、その頃にはただインターネットへ接続するというだけでは、世界の潮流に乗り遅れてしまっているだろう。つまり、政府の指針通り、マレーシアの全国民が曲がりなりにもインターネットへ接続する頃には、日本や韓国、シンガポールの全国民は10Mbpsクラスのインターネットを利用しているかもしれない。
既に日本では、有線ブロードバンドが常時接続型の100Mbps高速通信サービスを2001年から、月額料金4,900円(Home100: 個人ユーザ向けサービス)という安さでサービスを提供している。

現在のマレーシアは多くの潜在顧客が存在し、その規模はシンガポールを上回っている。ただ、マレーシアのインターネット環境は、過去から4つの問題(料金体系、品質、パフォーマンス、選択肢)を抱えこんでいるため、市場が思うように成長できないでいる。つまり、これら4つの慢性的問題を解決することが、インターネットに対する魅力を高める鍵となる。今回このような背景から、マレーシアに有益なインターネット環境を構築できないかという考えに至った。幸いにも、日本を含むIT先進国には、"現有のインフラ"を使って安価に高品質のネットワークを構築できる技術が多数存在している。このような技術こそ、IT発展途上国に紹介され、導入されるべきだと考える。

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